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奥底に秘めた闘志、演じられたらいいな 映画「天心」 平山浩行さんインタビュー
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俳優、平山浩行さんは「春草という人物に惚れ込みました。仕事への実直さは学ぶべきものがあります」と脱帽する=9月2日、東京都台東区・東京芸大奏楽堂(栗橋隆悦撮影) 得意の英語を駆使し、日本の美を海外に広く紹介した近代日本美術の父、岡倉天心(1862~1913年)の命日にあたる9月2日、平山浩行(36)は東京芸術大奏楽堂(東京都台東区)を訪れた。天心没後100年、生誕150年を記念して制作され、自らも天心のまな弟子、菱田春草役として出演した伝記映画「天心」(松村克弥監督)の完成披露試写会で舞台挨拶に登壇するためだ。前身となる東京美術学校を天心が設立した縁で、東京芸大が会場に選ばれた。
「実際に筆で線を描いて色を塗ってみましたが、時間がたつと色の感じが最初と変わってしまう。実は日本画はそういうことを最初に計算して描かれている。本当に難しい」。平山はこれに先立つ会見で、撮影に当たって実際に日本画にチャレンジした際のエピソードを披露した。本作は天心の生涯を主軸に据えているが、病のため38歳で急逝した春草の短くも激しい人生にも、主役級の扱いでフォーカスしているのだ。
1890年、東京美術学校の校長に就任した天心(竹中直人)のもとでは、春草、横山大観(中村獅童)、下村観山(木下ほうか)、木村武山(橋本一郎)の学生が互いに切磋琢磨し日本画の修業に明け暮れていた。ところが、エリートコースをひた走ってきた天心は次第に勢力を強める西洋画派と対立。ほどなく上司の妻(神楽坂恵)と不倫関係にあった天心を中傷する怪文書がまかれ…。
平山は出演の打診を受けるまで春草という人物を知らなかった。役作りで調べてみると、将来を期待された天才だったことが分かり、ますます興味がわいた。「そんな方を演じさせてもらえるなんて自分は幸せだ」とも思った。では春草をどう演じるのか。残された資料もきっと少ないに違いない。「他の弟子たちと一緒に絵を描いている写真が残っていたんですよ。映画の中でもその写真と同じ構図でその場面が盛り込まれています。1人だけレンズを見ている春草の顔をみたら、イメージがわきました。春草の心は繊細だけれども、奥底に秘めた闘志のようなものがある。そんな人物に演じられたらいいなと考えました」
物語の半分以上は茨城県北茨城市の五浦海岸にある人気の観光スポット「六角堂」とその周辺で撮影された。東京美術学校を追われた後、天心は新天地を求めてこの六角堂を建設し、春草らまな弟子たちと新たな日本画の創造を目指す拠点とした。六角堂には、東日本大震災の際、津波で流され、復活を願う地元の人々の思いを受けて再建された経緯があった。「僕らは大震災の年の10月ごろには六角堂で撮影に入り、大きな余震が続くなか演技を続けました。映画は地元の大きな期待を背負っていました。あの頃の不安を思うと、映画が完成した今、とても感慨深いですね」
平山が改めて感心するのは、天心を追い、妻と幼い子供を連れて六角堂へ行った春草の実直さだ。子供の食事にも事を欠く日々で、当然ながら妻との関係も悪化した。「それだけ天心に魅力があり、将来の可能性を秘めている方だったのでしょう」。平山にとっての“天心”は「俳優デビューの頃から何かとお世話になってきた竹中直人さん」という。
竹中のようなスタイルで変幻自在にあらゆる人物を生き生きと表現することはできないが、「『今回の平山の役はこんな人物なんだ』と毎回、楽しんでもらえるように懸命に取り組んでいきたい」。11月16日から全国順次公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:栗橋隆悦/SANKEI EXPRESS)
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