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【取材最前線】宝塚男役のヒゲ、今や伝統
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今年、創設100周年を迎えた宝塚歌劇団が1月27日まで、大阪・梅田芸術劇場で「風と共に去りぬ」(植田紳爾脚本・演出、谷正純演出)を上演している。1977年に宝塚で初演され、再演を重ねる宝塚の代表作の一つ。何より宝塚の男役スターが初めてヒゲを付けた、画期的作品として知られている。
上演中の舞台でレット・バトラーを演じるのは専科の轟悠(ととどき・ゆう)。映画でクラーク・ゲーブルが演じたバトラーのようなヒゲ姿で登場するが、あまりにも自然で、漂う大人の色気は「極めつけの男役」である。
世界でもまれな女性だけのレビュー集団は、女性演じる男役が特徴だ。足が身長の半分近くを占め、生ける彫刻のような美しい男役が演じる「王子様」キャラクターは、不動のヒーロー像だが、そこに新機軸を生み出したのが、この「風-」だった。
それまでヒゲは、男役スターには「生えないもの」だった。だが映画では「バトラー=ヒゲ」という野性的イメージが強い。そこで初演でバトラーを演じた榛名由梨さんは、トップスターとして初めてヒゲを付けた。この野性味あふれる榛名バトラーが大ヒット。以後、バトラーを演じた鳳蘭、麻実れい、天海祐希、真矢みきら、そうそうたるスターたちも、ヒゲを付け、「風-」を宝塚の代表作に育ててきた。
轟は雪組時代の1994年にバトラーを演じ、2002年に再演した際には菊田一夫演劇賞も受賞した。いわば代表作だ。今回の上演では榛名が演技指導でスタッフに名を連ねている。
男役の様式美は、先輩から脈々と伝えられ、だからこそ戦争など時代の波にも途絶えることなく、100年の歴史を刻んできた。一方で、昨年は人気ゲーム「戦国BASARA」を舞台化するなど、革新的な試みにも貪欲だ。伝統と革新の両輪は、400年の歴史を持つ歌舞伎にも通じる。
轟は歌劇団理事も兼ね、春日野八千代(1915~2012年)亡き後は、宝塚を代表する立場にある。以前、轟に100周年に向けた心境を聞いたところ「先輩たちに感謝しながら、恥ずかしくない舞台をするだけ」と多くを語らなかった。今、舞台で見せている男役こそが轟の答えだった。先人たちが100年かけて磨き上げた結晶のような男役を観客と後輩に示している。(飯塚友子/SANKEI EXPRESS)