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独自の視点で独裁国家を読み解く 「金正恩の北朝鮮 独裁の深層」黒田勝弘さん、武貞秀士さん

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独自の視点で独裁国家を読み解く 「金正恩の北朝鮮 独裁の深層」黒田勝弘さん、武貞秀士さん

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産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘さん(右)と元防衛研究所教官の武貞秀士(たけさだ・ひでし)さん。2人は数十年来の友人でもある=2014年1月17日、東京都千代田区(塩塚夢撮影)  【本の話をしよう】

 “金王朝3世”金正恩第1書記の指導者就任から3年。今、北朝鮮で何が起きているのか-。産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘さんと、元防衛研究所教官の武貞秀士(たけさだ・ひでし)さんの対談をまとめた『金正恩の北朝鮮 独裁の深層』が刊行された。在韓約30年の新聞記者と朝鮮半島問題の研究家が、激論を交わしながら北朝鮮の国家像に肉薄する。

 率直、多彩な対談

 35年来の友人でありながら、対談本を出版するのは初めてという黒田さんと武貞さん。対談のきっかけは黒田さんが「自分なりに北朝鮮のことを考えてみたくなった」ためだったという。「武貞さんは安保の専門家で、自分とはまた違った視点を持っている。何よりしょっちゅう一緒に飲んでいるから、イヤなことだって本音で言える(笑)」

 その言葉通り、対談は実に率直かつ多彩な内容となった。「軟」の黒田さんに、「硬」の武貞さん。「金正恩が肥満気味なのは、祖父の金日成のそっくり作戦?」「朝鮮半島の各地方の性格を漢字4文字で表すと…」といった文化的な話題から、「北朝鮮が核を捨てるシナリオはありうるのか」「北朝鮮と中国の関係が疎遠になりつつある?」などの安保問題まで。ときに正反対の意見を真っ向から交わしながら、金正恩体制と朝鮮半島の実情にぐいぐいと迫っていく。「黒田さんは朝鮮半島スケッチの第一人者。国土に根ざした人々の生き方を深く理解して、そういった視点からコリアンを説明する。非常に勉強になった」と武貞さんが言えば、「武貞さんは論理的に朝鮮半島問題を解明しようとする。僕はどちらかというと感情的になりがちなので、刺激を受けた」と黒田さん。

 北の動きは論理的

 本書の製作直後の昨年(2013年)12月、北朝鮮のナンバー2、張成沢氏の粛正というニュースが世界を駆け巡った。〈「新指導者は自分の権力を自分の手で固めようとする」「張成沢は妻・金敬姫があってこそのパワーでしょう。金敬姫が亡くなったりすると彼は危うい」〉など、本書には今回の事件を見通すような内容が収録されているが、2人にとっても張成沢氏の処刑は衝撃的だったという。

 「北朝鮮の権力者の無慈悲さや、権力の強大さを改めて知らされた」と武貞さん。「日本のメディアは北に対して冷やかすような見方が多いけれど、北は実は非常に論理的に戦略を作ってきている。この数カ月の動きを見ても、韓国よりもずっと北の方が論理的に整合性のとれた動きをしている。私がこの本で訴えたかったのは、北朝鮮が訴えようとしていることを、実際の情勢を通じて読み解き、その中で日本の防衛政策を考えていくということ。ぜひ若い人に読んでほしい」

 黒田さんも「何があってもおかしくない体制だ、ということ。従来の固定された視点ではなく、独自の視点で北を調べて、理解しなければならない」と話す。

 朝鮮半島問題の根本を理解するヒントが詰まった本書。格好の入門書であり、なおかつ「長続きする本」(黒田さん)にも仕上がった。(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■くろだ・かつひろ 1941年、大阪市生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信社ソウル支局長を経て、89~2011年、産経新聞ソウル支局長兼論説委員。現在、産経新聞ソウル駐在客員論説委員。1992年、ボーン・上田記念国際記者賞、2005年、菊池寛賞および日本記者クラブ賞を受賞。

 ■たけさだ・ひでし 1949年、神戸市生まれ。慶応義塾大学法学部、慶応義塾大学大学院博士課程修了。防衛庁の防衛研修所に入所し、朝鮮半島問題を研究する。統括研究官などを経て2011年退職。現在東アジア国際戦略研究所客員研究員、拓殖大学海外事情研究所客員教授。

「金正恩の北朝鮮 独裁の深層」(黒田勝弘、武貞秀士著/角川oneテーマ21、840円)

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