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社会
東日本大震災3年 途上国での経験生かして支援
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世界では、いまだに貧困や飢餓、自然災害で苦しんでいる人々が大勢いる。これらの問題解決の為には国際協力が大切だと言われているが、その重要性がいくら叫ばれてもどこか他人事のように感じる方も多いのではないだろうか。
しかし、想像してほしい。苦しんでいる人々の中に、自分の子供、父母や兄弟、愛する人がいたとしたら。2日に1度しか食事ができず、いつも空腹感と不安を抱いている…。読み書きのできる家族がいないため、だまされて偽りの契約書にサインしてしまった…。10歳の子供は貧しさの為に学校に行くことができない…。
もしこのようなことが身近で起きたら、あなたは愛する人をその状況から救い出すためにできる限りのことをしたいと思うのではないだろうか。貧困の中で苦悩する人々を単なる情報としてではなく身近な存在として捉え、「自分だったらどうだろう」と問うてみてほしい。
東日本大震災は、まさに他人事ではなく身近な問題として突如日本に襲いかかってきた。途上国で起きているような問題を日本にもたらしたのだ。
ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、開発途上国での活動経験を生かして、被災した方々にまず食糧や生活物資を届けた。仮設住宅への入居者のための生活物資支援やコミュニティー形成支援、生計回復のための漁業支援も行った。また、子供たちが安心して遊べる場所(チャイルド・フレンドリー・スペース)を設置。生活が困窮している家庭の子供たちには現在も奨学金支援を続ける。
さまざまな活動を進める中で、重要なことに気付いた。真の復興とは、我々のような「よそ者」ではなく、住民自身が復興に向けた取り組みを進めることによってのみもたらされるということだ。支援よりも前にその地域の課題に取り組む住民の働きがなければならない。
実は、既に被災地ではそのような動きが出てきている。宮城県南三陸町の子供たちは、新しい町づくりに関する意見を提言書にまとめ、町長へはっきりと伝えた。その姿は、自信に満ちて実に爽やかだった。
≪「何もかも」はできなくとも「何か」はできる≫
住民が、自分たちの手でできることに取り組み、場合によっては行政に提案や要求を出しつつ、連携できる所は連携して、地域社会を作る主体になる。この住民が主体的に地域を形作ることの重要性は、WVJが途上国支援活動の中から学んできたことだ。そしてこれが今、被災地の復興で求められている。
震災以降、被災3県では多くのNPOが生まれ、復興や地域の課題に取り組み始めた。それは、目前に迫る問題を「何とかしなくちゃ」という熱い思いが原動力となっていた。しかし実際は、経験も知識も不足している中で孤軍奮闘しているケースがほとんど。彼らが地域の課題に取り組める団体に成長すれば、真の意味での復興に近づける。その思いから、WVJは地域のNPOの育成・強化プロジェクトを行うことを決定した。
まず、「NPOを磨く15の力」をテキストにして集合研修を被災3県ごとに実施。その後、各団体に個別アドバイスを行う「メンターサポートプログラム」を11カ月間行い、更には組織の基盤整備のための実践的プログラムと、他団体へのインターンシップ・プログラムも実施した。最近では、組織強化につながる具体的な事業への助成も行った。
「全ての人に「『何もかも』はできなくとも、誰かに『何か』はきっとできる」。これは、ワールド・ビジョンの活動における基本的な考え方だ。地域の方々がそれぞれの置かれた場所で、「『何か』はきっとできる」という思いを持って復興と地域の課題に取り組み続けることができれば、こんなに素晴らしいことはない。
育成・強化プロジェクトに参加したNPOの中には、新しい試みを始めた団体もある。放課後に子供の学習支援を行っていたNPOは、震災後に増加した不登校の子供たちの支援活動を、学校と連携してスタートさせた。仮設住宅に住む老人の見回り支援を行っていたNPOは、この課題が当事者である住民全体で取り組むべきものだと認識してコミュニティー作りに取り組み始めた。このような意欲と知恵を携えたNPOが育成・強化プロジェクトから生まれ、活躍する。そんな元気な社会が出現し、子供たちの健やかな成長につながることを夢見ている。(ワールド・ビジョン・ジャパン 片山信彦/SANKEI EXPRESS)