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「ヘン」の向こう側に、たくさんの楽しさがある 「究極の愛について語るときに僕たちの語ること」 コエヌマカズユキさん

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「ヘン」の向こう側に、たくさんの楽しさがある 「究極の愛について語るときに僕たちの語ること」 コエヌマカズユキさん

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自身が経営するバー「月に吠える」のカウンターに立つ、ジャーナリストのコエヌマカズユキさん。「人の話を聞くのが大好き」という=2014年3月5日、東京都新宿区のゴールデン街(塩塚夢撮影)  【本の話をしよう】

 同性愛者、障害者、バーチャル依存…。さまざまな愛の形を切り取ったノンフィクション『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』が刊行された。著者は、新宿・ゴールデン街で“プチ文壇バー”を経営するジャーナリスト、コエヌマカズユキさん(34)。「愛って何?」。一見いびつに見える6つの愛から、普遍的な答えを導き出した。

 表面だけを見ない

 すべては、ゴールデン街から始まった。客として来ていた編集者と、「変わった形の愛はたくさんあるけれど、そこにも普遍的なものがあるんじゃないか」と仮説を立てたのが、企画のきっかけ。そこから常連や顔見知りの店などのつてをたどって、取材協力者を見つけ出していった。

 登場するのは6組。脳性まひの男性とソープ嬢、レズビアン、お見合いで結ばれた老夫婦、ネット上の恋愛に依存する女性、植物状態の妻を介護しつづける男性、ラブドール(ダッチワイフの一種)を恋人にする男性-。

 1年弱の時間をかけ、彼らの本音に迫っていった。「遠慮するのは逆に失礼。聞きたいことはグイグイ聞きました。気をつけたのは、フェティッシュになりすぎないこと。読み手に『自分とは違うから関係ない』と思われてしまってはいけない。綿密に話を聞いて、自分たちと同じ部分を見つけ出していきました」

 何度も口に出る「普遍性」「共通項」というキーワード。「うちのバーは新宿という場所柄、ニューハーフの方などもよくいらっしゃる。どうしてもイロモノに見てしまいがちだけど、実際に話してみると性の志向が違うだけで、自分と全く変わらない。表面だけを見て『ヘン』とくくってしまうと、視野が狭くなってもったいない。『ヘン』の向こう側に、たくさんの楽しさがあるのに。そんな『差』を埋めたい、という思いも執筆の動機の一つです」

 「目からウロコ」の答え

 広告代理店を経て、ジャーナリストに。「社会問題を声高に訴えるよりかは、人が取り上げない何げないドラマに興味があるんです。市井の人々を切り取ったコラム集『街角の詩』などで知られるアメリカのジャーナリスト、ボブ・グリーンに影響を受けました」

 人の話を聞くのが何より好きだ。バーをオープンしたのも、ワイワイ集まって、いろんな人の話を聞きたかったから。「取材したからこそ出会える、自分の想像力だけでは書くことができない面白さがある」

 その“面白さ”は本書にも光る。7年以上植物状態の妻を介護する男性の「生まれ変わっても、同じ相手と結婚したい?」という問いへの答え。車いすの男性の恋愛観。ネタバレになってしまうので割愛するが、いずれも「目からウロコ」のセリフだ。

 “仮説”への解は出たのだろうか。答えの代わりに、あとがきの冒頭に記されたドストエフスキーの名言を引用しよう。《愛情があれば、幸福なしでも生きていける》。「僕たちは幸福になるために愛するわけではない。愛したいから愛するだけなのです」(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■こえぬま・かずゆき 1980年、東京生まれ。ジャーナリスト、新宿・ゴールデン街のプチ文壇バー「月に吠える」(bar.moonbark.net)マスター。通信会社での社内報制作、広告代理店勤務を経て、2009年にフリー転向。本作が初の単行本となる。

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