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震災後の「未来」へ 世界中から集う作品 「手から手へ展」

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震災後の「未来」へ 世界中から集う作品 「手から手へ展」

更新

 【アートクルーズ】

 みんなで考えること

 東日本大震災から3年が経過したこの時期に、京都国際マンガミュージアムで、「手から手へ展~絵本作家から子どもたちへ 3.11後のメッセージ~」が5月18日まで開催されている。

 関連イベントの講演会&ドローイングが3月2日、開かれた。イベントは「チェルノブイリからフクシマまで」をテーマに、出展作家のスズキコージ、田島征彦、市居みか、あおきひろえ、青山友美、植田真、そして写真家・映画監督でチェルノブイリを舞台にした作品を手がける、本橋成一を迎えた。

 ライブドローイングでは大きなパネルに出展作家たちが共同制作した。みるみるうちに仕上がっていく作品を、観客は食い入るように見学。生き生きとした作品が完成した。

 イベント中で話した出演者の言葉を紹介する。「震災復興や原発のことを考えなければいけないはずなのに、これだけの人が集まって、エアコンをつけ、電気を使って、決して環境に良くない絵の具で絵を描くイベントをするなんて、ばかげているんじゃないかとさえ思う。けれど、こうして集まることで震災のことをもう一度考えるきっかけになることは確かだし、難しい問題ではあるけれど、分からないなりにみんなで考えたということも大きなことなのではないか」

 日々の生活に追われ、どうしても薄れていく震災の記憶。自己矛盾を抱えつつも、考え続けることの大切さを再認識する機会となった。

 離れた故郷を思う

 手から手へ展は、子供の本に関わる日本の絵本作家たちが中心となり、「3.11後の世界から私たちの未来を考える」というテーマで、世界の仲間たちに呼びかけて作品を募った展覧会だ。7カ国110人が参加し、会場には150点を超える原画が並ぶ。

 本展の特徴は、まず国外でスタートしたことである。スロバキア在住の絵本作家、降矢奈々が、遠く離れた故郷の日本を思い「自らの力で何かできないか」と発信したのが始まり。

 その結果、日本、スロバキア、そしてヨーロッパ各国の有志56人が参加し、東日本大震災1年後の2012年3月に、イタリアのボローニャで最初の展覧会を開催するに至った。以後、ブラチスラバ(スロバキア)、ワルシャワ(ポーランド)、アムステルダム(オランダ)、コペンハーゲン(デンマーク)と巡回し、世界の人々に作家たちの思いを届け、好評を博した。

 答えは一つでなく

 その後、荒井良二、いわむらかずお、酒井駒子など、国内作家の新たな作品が加わり、日本巡回展が始まった。2013年3月から、安曇野ちひろ美術館(長野県松川村)、ちひろ美術館・東京(東京都練馬区)、出雲市立平田本陣記念館(島根県出雲市)、日本新聞博物館(神奈川県横浜市)、絵本と図鑑の親子ライブラリービブリオラボ(福岡市南区)、福岡市総合図書館(福岡市早良区)と巡回。現在、そのバトンは京都に託され、今後は、被災地・福島へも巡回される予定だ。

 出展作品の内容は実に多様だ。普段と変わらない作風にメッセージを込めた作品を描いている作家もいれば、メッセージを伝えるために、あえて普段と違ったスタイルで作品を描いている作家もいる。原発再稼働を非難している人もいれば、日々の何げない生活を改めて感謝する作家もいる。

 これらの多様な作品を見ていると、震災に対する答えは一つでなくてもいい、答えはそう簡単に出るものではないと言ってくれているように感じる。3.11後の未来を考えるとき、誰もが納得できる答えなどそう簡単に出るはずはない。

 しかし、わたしたちはその答えを出すために焦ったり、諦めたりしているのではないだろうか。出展作品は多様ではあるが諦めることをメッセージした作品は一つもない。むしろ、考え続けようと後押ししてくれるものばかりである。(京都精華大学国際マンガ研究センター研究員 小川剛(つよし)/SANKEI EXPRESS

 ■おがわ・つよし 1981年、京都府生まれ。京都精華大学国際マンガ研究センター研究員。2006年、京都精華大学大学院芸術研究科博士前期課程修了。京都国際マンガミュージアム職員を経て現職。

 【ガイド】

 手から手へ展は5月18日まで、京都国際マンガミュージアム(京都市中京区烏丸御池上ル)。大人800円、中学・高校生300円、小学生100円。水曜休館、4月30日は開館。問い合わせは(電)075・254・7414。

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