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政治
米国の「核の傘」 揺らぐ信頼性
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日米防衛相会談を終え記者会見する、小野寺五典(いつのり)防衛相(左)と米国のチャック・ヘーゲル国防長官=2014年4月6日、防衛省(共同)
日本を訪問したヘーゲル米国防長官は、安倍晋三首相が意欲を示す集団的自衛権の行使容認を歓迎する意向を示した。また、ヘーゲル氏は尖閣諸島(沖縄県石垣市)が日本の施政下にあり、日米安保条約が適用されると述べた。中国の猛烈な軍事力増強と北朝鮮の核・ミサイル開発による安全保障環境の激変に直面している日本にとって、いずれも歓迎すべきものだ。一方、ケリー米国務長官は、日本の核武装を止めることが米外交の課題の一つだとの認識を示した。安全保障を米国の核の傘に依存する日本にとって、その核戦略は注視し続けなければならない。日米両国は核戦略について胸襟を開いて話し合うときに来ている。
ケリー氏は3月13日の米上院歳出委員会小委員会の公聴会で、北朝鮮の核・ミサイル開発に絡んで「日本と韓国が脅威を感じるあまり、独自の核武装に動くことがないよう両国と協力し合っている」と述べた。また、米国防総省のウォーマス副次官も3月10日の講演で、東アジアから米軍が後退するとの印象が広がると、日本の核開発のリスクが高まるとの認識を示した。元陸上自衛隊幹部は「米政府内で、日本が核武装を検討するのではないかとの認識が広がりつつあることを示している」と話す。
日本政府は作らず、持たず、持ち込ませずの非核三原則の下で、独自の核武装をせず、核抑止力に関しては米国の核の傘に依存する政策をとっている。日本が中国や北朝鮮から核攻撃を受けた場合、独自に核報復する力はない。その代わりに米国が核報復を行うということだ。
この政策は米国が、必ず核報復に踏み切るということを大前提としている。だが、その核の傘の信頼性が確かなものだと実証する手立ては残念ながらない。日本政府が、政府高官レベルの会談で、米国から対日防衛の明言を引き出そうとするのも、その信頼性を内外に示そうという狙いがあるといっていい。だが、米国が核戦力を含む圧倒的な軍事力を保持していた時代は去った。こうしたなか、中国の核戦力増強と北朝鮮の核開発で、米国の核の傘は信頼性が揺らいでいるのではないか、という指摘がされてきた。
米国のオバマ大統領は「核なき世界」を打ち出し、核戦力の見直しを進めている。米国務省によると、今年4月1日時点で配備済みの核弾頭数は、米国が1585発、ロシアが1512発だ。米露両国が2010年に締結した新戦略兵器削減条約(新START)は、18年までにそれぞれ1550発に削減することを目標としている。
核戦力維持が巨額の財政負担を伴う一方で、アルカーイダなど国際テロ組織による核保有の恐れがあるなか、米政府が核政策の見直しを進めるのは理解できなくもないが、安全保障の根幹を米国の核の傘に依存するわが国としてはもろ手を挙げての歓迎とはいかない。
すでにわが国とって現実的な脅威となった中国は、海空軍だけでなく核戦力の増強にも邁進(まいしん)しており、東シナ海や南シナ海から米国本土を核ミサイルで狙うことができる晋級戦略ミサイル原潜の配備を急いでいる。一方、北朝鮮は「新形態の核実験」の実施を示唆している。つまり、わが国を取り巻く核戦力環境は悪化の一途をたどっているといっていい。
日本政府はヘーゲル氏の対日防衛明言を歓迎しているが、そこで思考停止状態に陥っていいのだろうか。中国の核ミサイルがワシントンやニューヨークを射程に収めるなかで、米国は日本のために本当に核の報復に踏み切れるのか、「核なき世界」を掲げるオバマ氏は核ミサイルの発射命令を下すことができるのか、核報復がされるとしたら、それはどのような事態になってからなのか。元防衛省幹部は「日本が米国とその核戦略について真剣に討議する時期が来ている」と指摘している。(笠原健/SANKEI EXPRESS)