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30年前に海外録音された3部作 加藤和彦の貴重なシリーズ、復刻
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1980年、ベルリンを分断する壁の近くにあったハンザ・スタジオでの音楽アーティスト、加藤和彦さん(提供写真) 加藤和彦といえば、古くはザ・フォーク・クルセダーズや、イギリスツアーも行ったサディスティック・ミカ・バンドでの功績もあるが、ソロ、プロデューサーとしての活動も素晴らしかった。しかも食通で旅の達人であり、ファッショニスタでもあり、アートなどの知識も豊富な文化人として知られていて、多彩なエッセンスや美意識も音楽に反映されていた。さらにウイットにあふれた作詞家・安井かずみとの夫婦像は、本当にすてきだった。私は雑誌編集者時代にバミューダ諸島への取材でご一緒したのだが、ちょっとした会話からも学ぶことばかりだった。
その2人が1979年から81年にかけてバハマ・ベルリン・パリと赴き、現地の空気感を音楽に取り入れるようにして制作したのが《ヨーロッパ3部作》と呼ばれるアルバム。それらが30年の時を経て復刻された。YMO、大瀧詠一、山下達郎などがチャートを席巻していた時代に、加藤に招かれて坂本龍一、高橋幸宏、小原礼、大村憲司らがバハマへ渡り、ローリング・ストーンズやボブ・マーリーらが使用していたスタジオで『パパ・ヘミングウェイ』をレコーディング。ベルリン録音の『うたかたのオペラ』はデヴィッド・ボウイ&ブライアン・イーノが使用したスタジオで、細野晴臣や矢野顕子も参加。
パリ録音の『ベル・エキセントリック』はパリ郊外のシャトー・スタジオに全員集って制作。一見豪華だが、同封の本に掲載された当時のスタッフの貴重な発言を読むと、設備面をはじめ、相当タフな環境と状態で進められたようだ。
一つ一つの曲に込められた世界観がまるで絵画のように優雅で、それは私がいつも感じていた加藤和彦のダンディズムそのものなのだが、その背景にはヒートアップすることが多々あったらしい。
最後にレコーディング・エンジニアとして参加していた大川正義の言葉を。
「いつも何か新しいことにトライする。この『ベル・エキセントリック』の時は空間がテーマでしたが、加藤さんはそれを消化すると次に行ってしまう。消化するまでの追求度、そのすさまじさはこれまで語ったとおりです。ぜひとも10代、20代の若い人にこそ聴いていただきたいです。読み継がれる本ならぬ、聴き継がれる音楽ですよ」(音楽ジャーナリスト 伊藤なつみ/SANKEI EXPRESS)