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科学
ゴッホの耳 「科学の絵筆」でよみがえる 再生医療を応用、独芸術家が制作
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画家ビンセント・ファン・ゴッホ(1853~90年)が1889年に描いた「耳を包帯でくるんだ自画像」。ゴッホは自分の左耳をカミソリで切り落としたとされるが、自画像は鏡をみながら描かれたため右耳に包帯が巻かれているようにみえる(ゲッティ=共同) 後期印象派を代表するオランダ出身の画家、ビンセント・ファン・ゴッホ(1853~90年)の耳のレプリカが、ドイツ南部カールスルーエ市にある公営の美術館兼研究所「アート・アンド・メディアセンター」で6月30日から美術作品として展示されることが(6月)3日、分かった。精神を病み、自分の左耳をカミソリで切り落とす猟奇事件を起こしたことで知られるゴッホだが、彼の一族の末裔(まつえい)が保存していた当人の生きた細胞の一部を培養するなどして耳の再生に成功した。芸術と生体科学が融合した世界初の奇妙なアートプロジェクトとして注目されそうだ。
AP通信や米の美術系ニュースサイト、アートネットニュースなどによると、このレプリカを作ったのは米を拠点に活動するドイツ人女性芸術家、ディムト・ストレブ氏で、作品名は「sugababe(シュガーベイブ)」。
ストレブ氏はゴッホの弟テオドルス(1857~91年)の玄孫(やしゃご=ひ孫の子)であるリーウ氏が保存していたゴッホの唾液と軟骨のサンプルの提供を受け、約3年がかりでこのアートプロジェクトを完成させた。
ストレブ氏はリーウ氏の存在を知る前、生前のゴッホが舌で舐(な)めて封筒などに貼り付けたとみられる切手から、当人の唾液のDNAを採取するという実現性の低い方法まで試みようと試行錯誤したが、リーウ氏の協力を得てゴッホの生きた細胞のサンプルを入手したという。
このサンプルを元に、米マサチューセッツ工科大学(MIT)と米ハーバード大学が1995年に成功させた人間の耳の軟骨の細胞をマウスに植え付けて耳を再生する医療技術を応用。米ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院で耳をガラスケース内の培養液の中で成長させた。耳の形は3Dプリンターを用いてリアルに成形した。
ストレブ氏はAP通信との電話インタビューで「私はゴッホが絵の具を使ったように、科学を絵筆のように使ってこの作品を作り上げた」と説明。リーウ氏から快諾を得るのは容易だったと明かし、「彼もたちまちこのプロジェクトを気に入ってくれたわ」と振り返った。
ゴッホは友人の著名なフランス人画家ポール・ゴーギャン(1848~1903年)と南仏アルルで共同生活を営んでいた1888年12月、精神を病んでいたことから自分の左耳をカミソリで切り落とし、そのまま売春宿に向かい、店の女性にその耳を「プレゼントだ」と手渡して自宅に戻ったといわれている。しばらく入院生活を送ったものの、本人は自分の行いを全く記憶していなかったが、翌89年1月に退院し、担当医に贈るため、耳に包帯を巻いた自画像を描いている。
しかし2009年5月5日付米ABCニュース(電子版)などによると、2人のドイツ人歴史家が、ゴッホの耳を切り取ったのは、ゴッホと大げんかして怒ったゴーギャンであるとの新説を発表し、話題となった。
そうしたいわく因縁があるゴッホの耳のレプリカだけに、ストレブ氏は、アート・アンド・メディアセンターで7月6日まで展示した後、来年にはニューヨークの美術館でも展示したいとの意向を明かした。耳の方は培養液に入れられており、展示会が長期でも問題ないという。
現在、耳はこれひとつだけだが、リーウ氏やオランダ・アムステルダムにあるゴッホ美術館では、耳のコピーの入手を希望している。(SANKEI EXPRESS)