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対過激派 新戦略急務のパキスタン
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パキスタン北西部の部族地域、北ワジリスタン地区
パキスタンの最大都市カラチで6月8日深夜、イスラム過激派「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の武装集団がカラチ国際空港内に侵入し、治安部隊との間で5時間以上にわたる銃撃戦を続けた。TTP側の10人を含む30人以上が死亡した。警備態勢が厳重なはずの国際空港が襲撃されたことについて、6月11日付のパキスタンの主要英字紙ドーンは社説で、「カラチ空港で起こった出来事は国家の甚大な失態である」と、いらだちをみせる。
2009年以降、首都イスラマバード近郊の陸軍司令部、カラチのメヘラン海軍基地、北西部ペシャワルのペシャワル国際空港などの主要施設が襲撃を受けてきただけに、治安部隊は世界で最も訓練され、かつ即応体制ができているべきである。にもかかわらず、今回も攻撃を受けたことに、ドーン紙は「治安部隊は執念深い敵の前では無力だった」と落胆する。
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT、電子版)は6月9日、TTPの攻勢は、中央銀行や証券取引所を抱えるパキスタンの“心臓部”カラチを狙ったことにより、「新たな段階」に入ったと社説で指摘する。その上で、今回の事態が「政府と強力な軍に、タリバンの脅威を認識させ、包括的な方法で対峙させる機会になるのか?」と問いかけ、「そうであるべきだ」と主張する。NYT紙はその理由を「襲撃が示すのは治安の悪化と、最強機関の軍が統制を失う危機に直面していることだ」と指摘し、パキスタン側に早急な対応を迫る。
パキスタンは、インドに対抗するためTTPなどのイスラム過激派を育て、アフガニスタンに対しても武装勢力を利用してきた。こうした経緯から、過激派を「脅威」ととらえることができずにいる。NYT紙は、「その結果、武装勢力に対する持続的で一貫した軍事力での対応が欠如した」と批判する。
就任2年目に入ったナワズ・シャリフ首相(64)率いる政権がこれまで、TTPとの「対峙」と「和平交渉」で、どっちつかずの態度をとり続けたことも問題だった。この点について、6月11日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、シャリフ氏がTTPとの交渉を通じて和平を模索したことへの「(TTPの)回答がカラチだった」と指摘。「過激派は国家を転覆させ、核兵器を入手したがっている」として和平交渉に否定的な見方を示す。また、「パキスタンのエリート層はインドからの侵略に気をもんできたが、実際は内なる侵略を招いてきた」と指摘する。
それでも閣僚や軍幹部からは相変わらず、「カラチ空港襲撃の背後にインドの存在がある」との発言が出ている。これに対し、パキスタン国内では「治安態勢と人員の総取り替えが喫緊の課題であることをわからせるために、もっと証拠が必要なのか? 断固とした行動を取る前にもっと多くの遺体が積み上げられなければいけないのか?」(ドーン紙)との声も上がっている。
カラチ国際空港襲撃についてTTP側は、2月の和平交渉が決裂した後、パキスタン政府が、TTPが拠点を持つアフガニスタンとの国境に近いパキスタン北西部の部族地域、北ワジリスタン地区に実施した空爆への報復だと主張。それでも政府との和平交渉を復活させたいと希望しているといわれる。しかし、NYT紙は「武装勢力は国家が不安定になり、自分たちが統制力を奪取するまで攻撃を止めない」として、「解決策を見つける時間は少なくなりつつある」と主張する。
WSJ紙も、「もしパキスタンが過激派に国家を奪われたくなければ、自己欺瞞(ぎまん)をやめ、自分たちが作り上げたテロリストを打倒する新しい戦略を打ち立てる必要がある」と訴えている。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS)