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政治
安倍政権の潮目は変わったのか
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滋賀県知事選で当選を決め、支持者らと万歳する民主党元衆院議員の三日月大造(みかづき・たいぞう)氏(中央)。与党候補の敗北は安倍政権の退潮を意味するのか=2014年7月13日夜、滋賀県大津市(共同)
7月13日投開票の滋賀県知事選では自公両党が推した元経産官僚が敗北、民主党元衆院議員の三日月大造(みかづき・たいぞう)氏(43)が接戦を制した。この結果をもって安倍晋三政権の“潮目”が変わったという論評もある。果たしてそうだろうか。
告示後に集団的自衛権の行使容認に関する与党協議がまとめられ、閣議決定された直後から内閣支持率は下がっている。セクハラやじ問題も自民党のゆるみだという指弾もあった。無党派層も動かず、自民党閣僚経験者が「滋賀県知事選は、頂門の一針だ」と警鐘を鳴らしているのももっともだ。
友党である公明党の実動部隊の足も鈍りがちだった。公明党と支持母体の創価学会は、集団的自衛権の問題にはかねてから慎重だった。与党合意に至った経緯を党内でしっかりと納得する時間が足りず、一進一退の選挙情勢に焦った官邸筋からてこ入れ要請が頻発されたにもかかわらず、「公明党が必死のF(フレンド票)取りをしたような感触はなかった」(自民党幹部)という。
福島県知事選(10月26日投開票)、沖縄県知事選(11月16日投開票)と滋賀より難しい地方選は続く。公明党からの協力が得にくくなり、無党派層が戻らずにこれらの地方選で連敗すればいずれ-というのが“潮目”論を組み立てている主な柱だ(内閣改造人事での失敗、スキャンダル、危機管理上の判断ミスなど潮目を作り出す要素はほかにも限りないが、これら不測の事態は今は置く)。
公明党が、国際情勢に照らして集団的自衛権問題で合意できたことは安全保障分野にとどまらない意味があるように思える。公明党は平和と福祉を二枚看板にやってきた。たとえ防衛庁の省昇格といった機構改革であっても、党内議論の過程で「これが集団的自衛権行使容認への道を開くものではない」と確認する作業があったほどナーバスだった。
その公明党が集団的自衛権に関して政府・自民党と合意できたということは「連立離脱カード」は、倒閣や連立組み替えなどの政局判断ぐらいに限られてくることを意味する。公明党が安倍自民党からの「離脱」を決断しない限り、濃淡こそあれ自公の協力態勢は継続されるだろう。
また、無党派層の動向は、地方選の結果というよりも景気動向が大きく左右するのではないだろうか。受け皿となる野党勢力も未発達だ。原発再稼働を懸念材料に挙げる声もあるが、むしろ「成長戦略」の拡大・充実や来年度予算の概算要求のほうが、政権に対する評価に及ぼす影響が大きい。
それにしても、いただけないのは山口那津男(なつお)代表(62)の発言の変わり方だ。集団的自衛権をめぐって昨年から年初にかけて安倍晋三首相(59)に政権離脱をほのめかすような、厳しい牽制(けんせい)を繰り返したのは周知の通りだが、与党合意後の「週刊朝日」のインタビュー(「“腰砕け”批判に答える」)では「政党が異なれば当然、政策の違いもあります。でもそのたびに離脱、離脱と言っていたら、連立政権の信頼を失ってしまう」とさらりと語っている。
1月に自ら「離脱カード」を捨て、党内から「痛恨の一事」(古参幹部)といわれたことについても、「むしろ『離脱しない』ということがタガをはめることになった」と説明している。
9月21日の党大会で代表続投が確実となっていることもあり、求心力を保つため支持者向けにストーリーを組み立てなければいけないという事情があるのかもしれないが、ちょっと苦しい。
一方で、国会討論や選挙の街頭演説では、論客で知られる山口氏が大活躍し、自公の政権奪還の原動力の1つになったのは確かだ。それだけに今回の苦しい釈明は山口氏一人の責任とはいえず、チームとして代表を補佐する仕組みがいまひとつ足りなかったのではないかと考える。(佐々木美恵/SANKEI EXPRESS)