ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
政治
「あなたは日本人だ、帰国の準備を」子供世代も聴取 北の拉致再調査、地域で温度差
更新
7月1日に北京の北朝鮮大使館で開かれた日朝政府間協議=2014年、中国・首都北京市(共同) 北朝鮮が日本との政府間合意に基づき進める拉致被害者ら「全ての日本人」に関する再調査で、自分が日本人だと知らずに育った子供世代にも帰国を前提に聴取が行われていたことが8月3日、関係者の証言で分かった。一方で、表面的な所在確認にとどまっているケースもある。北朝鮮が特別調査委員会を設置してから4日で1カ月となるが、北朝鮮が約束した「包括的かつ全面的調査」がどこまで徹底されるかは不透明だ。
「あなたは日本人だ。今回、日本に帰国してもいいことになった。準備をするように」
日朝関係者によると、北朝鮮北部に住む60代ぐらいの男性は最近、地方当局者から一方的にこう告げられた。男性は「普通の北朝鮮公民と信じて暮らしてきた」。当局者から「日本に家族を連れて行ってもいい」と説明されたが、日本は“異国”でしかなく、「行きたくありません」と答えたという。
1960年代を中心に在日朝鮮人の帰国事業が推進され、日本人配偶者や子供ら日本国籍を持つ約6700人も北朝鮮に渡った。男性は日本人配偶者の子供の可能性が高いが、先の大戦に絡む残留日本人ら別の事情でとどまった日本人の子供の可能性も残る。戦後、消息がつかめない残留日本人は1400人以上。全ての日本人の子供や家族まで調査するとなれば、対象は数万人規模に上る計算になる。
一方、別の消息筋によると、地方当局者が日本人配偶者に声を掛けて所在確認するだけだったり、子供ら家族の調査は手付かずだったりする地域もある。
消息筋は「日本人の多い地域ではおざなりな調査で済ますが、少ない地域では子供世代まで聴取して上に報告する日本人数を水増ししようとしているのではないか」と話す。
自主的に北朝鮮に渡航したとする「行方不明者」ら他の日本人への調査も行われているが、先の男性同様、「帰国したくない」との回答が目立つという。かつて、日本への帰国を求め収容所に送られた日本人配偶者もいるとされ、「正直に答えて処罰されるのを恐れている」(消息筋)ケースも少なくないとみられる。
政治犯収容所にも調査が及んでいると伝えられるが、現場担当者らは、処罰されて収容所に送られるような日本人の扱いに神経を使い、帰国対象を選別しているという。消息筋は「上部機関に報告する調査結果は恣意(しい)的な内容にならざるを得ない」とみている。(桜井紀雄/SANKEI EXPRESS)
≪情報漏れ警戒 日本側は検証準備チーム見送り≫
首相官邸と外務省は、北朝鮮による再調査が始まってからの1カ月、関係省庁や関連団体への具体的な指示や要請をしていない。情報漏ろう洩(えい)や臆測が広がることを懸念しているためで、関係省庁合同の検証準備チームの結成を見送ることが8月3日、判明した。
北朝鮮は再調査のための特別調査委員会に(1)拉致被害者(2)行方不明者(3)日本人遺骨問題(4)残留日本人・日本人配偶者-の4分科会を設置。第1回の再調査結果は早ければ8月下旬にも示される見通しだ。政府は、十分な裏付けを行うため、4つの分科会に対応した省庁横断の検証チームを設置する方針だ。
ただ、「日本人配偶者」をめぐって、旗振り役の外務省の動きは鈍い。日本赤十字社は1997~2000年に計3回、北朝鮮にいる計43人の一時帰国事業を展開するなど、日本人配偶者らの情報を入手してきた。今回、官邸・外務省から検証に向けた準備の要請はないといい、今後の対応は不透明なままだ。
「遺骨」「残留日本人」の情報を持つ厚生労働省も動いていない。厚労省社会・援護局は、軍人の死亡地や未帰還者に関する資料を終戦直後に旧引揚援護庁から引き継ぎ省内で保管。今回の再調査の裏付け作業に欠かせない資料となるが、精査は進んでいない。
政府関係者は、「政府の対応で最も優先順位が高いのは拉致被害者救出だ。日本人配偶者や遺骨問題に対する動きはおのずとゆっくりになる」と指摘。官邸筋も「日本人配偶者や遺骨問題はかなりの調査が必要で、時間がかかる」との見方を示す。
外務省は日朝交渉を北京の日本大使館を経由して行ってきたが、情報伝達は拉致事件捜査の陣頭指揮を執る警察庁などに限ってきた。7月29日になって官邸の杉田和博官房副長官が厚労、外務両省と警察庁の幹部らを集めて“説明会”を初開催したが、「時間も短く、実務の話はあまりなかった」(関係省庁幹部)という。
引き続き定期的に説明会を開くことを申し合わせたが、政府高官は情報漏れを防ぐため「横断的な検証準備チームは作らない。それぞれがしっかりやる」と明言した。
再調査結果の公表までは、北朝鮮側の出方を慎重に見極める構えだ。(SANKEI EXPRESS)