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戦場の結婚式 つかの間の歓喜 ガザの学校、4000人避難住民が祝福
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イスラエル・パレスチナ自治区ガザ地区ガザ市 イスラエル軍による大規模な攻撃で多くの犠牲者が出ているパレスチナ自治区ガザの避難所となっている学校で8月13日に結婚式が行われた。新郎新婦は空爆で家が破壊され、ウエディングドレスも失ったが、家族や友人、避難所を運営する国連機関の計らいで挙式し、約4000人もの避難住民が2人の門出を祝福した。「われわれは喜びを取り戻そう」との垂れ幕も掲げられ、悲しみに沈んでいた避難所に笑顔があふれた。だが、新生活を送るため、2人はガザを脱出するという。挙式の数時間後に一時停戦の5日間延長が決まったが、戦闘終結への道筋は見えないままだ。
挙式したのは、新郎オマル・アブ・ナマルさん(30)と新婦ヘバ・ファヤドさん(23)。
「もし誰かがこんな状況の中で結婚式を挙げると言ったとしても、絶対に信じなかったわ」
花嫁となるヘバさんは前日に美容院で長い髪のセットを受けながら、諦めていた結婚式を挙げられる喜びを語った。
フランス通信(AFP)などによると、2人は来月(9月)にヘバさんの実家で挙式する予定だったが、イスラエル軍の爆弾が家を直撃し、用意していたドレスやアクセサリー、飾りの花も吹き飛んだ。「すべてを失った」と意気消沈したヘバさんは、避難所の学校に逃げ込んだ。
しかし、家族や友人が2人を応援し、相談を受けた避難所を運営する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が、学校の中庭で式を挙げられるように手はずを整えた。新婚の2人のために2泊分のホテルの宿泊も用意した。
式はガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルが交わした72時間の停戦期限が数時間後に迫る中、始まった。
スーツにネクタイ姿の新郎と真っ白のドレスに身を包んだ新婦は幸せそうに並んで座り、出席者は歌ったり踊ったりして2人を盛大に祝った。
新婦は「もし今日、式を挙げていなかったら、3年間は無理だったと思う」と喜び、新郎は「僕はヘバと結婚できるから幸せなんだ。パレスチナ人はどこでもいつでも幸せを味わうことができるし、幸せになる権利がある」と訴えた。
ガザでは国連が避難所として使用していた学校も空爆の標的となり、子供を含む多くの避難住民が命を落としているが、このときばかりは、家族や友人、家を失った悲しみをしばし忘れることができた。
ただ、花嫁の母のナビラさんは「もっと素敵な式を挙げて欲しかったのに、避難所の学校で結婚するなんて悲しい」と、悲惨な現実を嘆いた。ナビラさんは2006年のイスラエルの空爆で車いす生活となり、9歳の息子もイスラエル軍に殺害されたという。
一時停戦は延長されたが、イスラエルとハマスが本格停戦で合意できるかは予断を許さない。避難住民の多くが今後の生活を見通せないのが実情だ。
挙式を終えた新郎は、自分の家族が住むアラブ首長国連邦(UAE)で新生活を送るため、新婦を連れてガザを脱出するという。新婦も「つらい経験を全て忘れて新たな人生を始めたい」と話す。
UNRWAの広報担当、クリストファー・ガネス氏はAFPにこう語った。
「殺戮(さつりく)と破壊の中、愛と喜びの瞬間に励まされたが、ガザが最悪の事態に瀕(ひん)しているという現実を忘れてはならない」(SANKEI EXPRESS)