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惨憺たる増税後の日本経済 瀕死状態に追い込まれたアベノミクス

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惨憺たる増税後の日本経済 瀕死状態に追い込まれたアベノミクス

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円相場と株価、生産、消費の推移(※2012年12月=100)=2012年12月~2014年9月 【国際政治経済学入門】

 来年10月から、消費税率の再引き上げを予定通り実施すべきかどうか、議論が本格化してきた。増税を決めた「3党合意」の当事者である谷垣禎一(さだかず)自民党幹事長、公明党の山口那津男(なつお)代表と野田佳彦前首相が9月12日に「同窓会」を開いて、「予定通り実施」を申し合わせたというが、これらのリーダーたちは増税で景気が大きく下降したことについて、痛痒を感じていないのだろう。

 民主党は本来なら、景気を材料に他の野党とともに安倍晋三政権を追求してもよさそうなものだが、消費税増税法案を成立させた当時の政権与党だから、海江田万里(かいえだ・ばんり)代表の発言は弱々しい。どこかの新聞社の大失敗を教訓に、さっさと素直に「重大な間違いをおかしました」と、わびて出直せばよいものを。

 元大蔵官僚議員の豹変

 その点、自民党はさすがにしっかりしている。増税派が多数を占める自民党内にあって、首相の経済政策「アベノミクス」の仕掛け人と目される山本幸三衆院議員が、所属する岸田派の若手約10人を集めて「再増税は厳しい。景気の腰折れを招くのは必至だ」と述べ、10%への引き上げは1年半先送りすべきだと論じた。

 山本氏は旧大蔵省(現在の財務省)に同期トップで入省した経歴の持ち主で、財務省が描く増税シナリオに同調してきたのだが、豹変(ひょうへん)した。山本氏は、日銀の異次元緩和最重視の立場をとり、緩和効果によって消費税増税に伴うデフレ圧力はかわせるとの見解だった。この点は、同じ財務官僚上がりの黒田東彦(はるひこ)日銀総裁と共通しており、黒田氏は昨年9月、安倍首相に予定通りの増税実施を進言したのだった。

 その結果は惨憺(さんたん)たるものだ。8%への増税後の日本経済がどうなっているかを、グラフで見てみよう。円の対ドル相場、株価、鉱工業生産、家計消費の動向をアベノミクスが事実上始まった2012年12月を「100」とする指数で表している。株価は日経平均ではなく、グローバル指標であるドル表示のMSCI日本株価を選んだ。日本株への国際評価の程度を反映するからである。

 一目瞭然、株価と生産動向は13年12月までは円安に引き上げられるように上向いてきたが、今年に入ってから変調をきたした。株価は下降した後、7月に持ち直しかけたが、8月から再び下向いている。鉱工業生産の方は今年1月をピークに下降し続けている。

 消費のほうは、株高にもかかわらず13年も足取りは重いままだった。今年4月の増税前の駆け込み需要で大きくジャンプした後は、急峻(きゅうしゅん)な崖を転がり落ちている。7、8月も底ばいの状況で、政府やエコノミスト多数派、日経新聞などが盛んに喧伝(けんでん)してきた夏場以降のV字型回復どころではない。

 消費はデフレ時代のまま

 総じてみると、アベノミクス1年目は円安効果が絶大で、株高と生産回復につながった。しかし、消費の方はは、「15年デフレ」の様相のままだ。そこに消費税増税に直撃されてしまった。増税後、企業の在庫は増え続け、減産に追い込まれている。

 株価の方は、今年4~6月期の国内総生産(GDP)の第1次速報値が発表された8月のお盆休暇前から下落した後、回復力は弱い。9月から再発した円安トレンドとは逆にドル建ての株価は下落基調にある。

 もともと、アベノミクスの最大の柱は「第1の矢」とされる異次元金融緩和である。「第2の矢」の機動的財政出動は公共事業の集中執行であり、景気を水増しさせても、成長を持続させるわけではない。「第3の矢」の成長戦略は規制緩和などだが、当面の景気には無縁だ。

 異次元金融緩和はインフレ率を押し上げて実質金利をマイナスにし、消費者や企業にカネを使わせる狙いがあるが、家計は物価上昇に伴う実質収入の目減りのために、財布のヒモを締める。企業は内需の低迷をみて国内生産や投資に慎重だ。そうなると、金融緩和最大の産物は円安ということになるが、輸出の数量は増えない。最後の頼みは株高なのだが、増税後は円安による株高効果が衰えた。

 円安はむしろ、輸入コストを引き上げて内需中心の中小企業や地方経済の打撃になっている。しかし、黒田日銀総裁は依然として、「金融緩和=円安」という方程式に執着し、円安容認の姿勢を示している。

 消費税増税の結果、瀕死(ひんし)状態に追い込まれたアベノミクスを建て直すためには、「円安=株高・輸出増」の方程式に賭けざるをえないだろうが、その限界は明らかだ。山本議員に見習って、増税大幅延期を首相に進言した方がよい。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS

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