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「スナイパー」裁判に映画の影 実話モデル射殺 被告側「陪審心証に影響」

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「スナイパー」裁判に映画の影 実話モデル射殺 被告側「陪審心証に影響」

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「米軍史上最強の狙撃手」といわれ、退役後に銃撃事件で死亡したクリス・カイルさん=2012年4月6日、米テキサス州ミドロジアン(AP)  イラク戦争に派遣され、「米軍史上最強の狙撃手」と呼ばれた海軍特殊部隊シールズの元隊員、クリス・カイルさん=当時(38)=が退役後の2013年2月に射殺された事件で、殺人罪に問われた元海兵隊員、エディ・レイ・ルース被告(27)に対する裁判が11日、テキサス州で始まった。米国では現在、カイル氏の自伝に基づく映画「アメリカン・スナイパー」(クリント・イーストウッド監督)が空前のヒットを記録中。「仲間を守るため」に約160人を射殺し、それに苦悩しながら生きる主人公が描かれている。弁護側は被告には責任能力がなかったとして無罪を主張する構えで、映画が陪審員の心証に影響を与え公正な審判ができないと異議を唱えており、裁判の行方に全米が注目している。

 「善悪判断つかぬ」

 米メディアによると、この日の初公判で被告側のティム・ムーア弁護士は「ルース被告はカイル氏に『こいつは本物のバカだ』と言われた。被告は善悪の判断がつかないほど精神を病んでいたので射殺してしまった」と訴えた。

 これに対し、検察側のアラン・ナッシュ検事は冒頭陳述でカイル氏が背後から6発撃たれたことを明らかにした上で、「被告は事件当日、ウイスキーを飲み、麻薬を吸ったと捜査員に話した。2人の殺害を認め、『自分がしたことも分かっている』とも述べた」と説明。被告には責任能力があり、殺害は綿密に計画されていたと主張した。

 カイル氏は1999~2009年にかけて計4回、イラク戦争に従軍。2キロ先の敵兵を一発で仕留める狙撃技術でイラク兵や武装勢力の戦闘員ら約160人を射殺したとされる。

 09年の除隊後は、自らが心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんだ経験を生かし、射撃などを通じて退役軍人らのPTSDの克服を手助けする活動をしていた。

 事件は13年2月2日に起きた。カイルさんは相談にのるため、ルース被告をテキサス州グレンローズの射撃場に誘い、そこで友人とともに射殺された。被告もアフガニスタンやイラクに派遣された経験があった。

 公判でカイルさんの妻、カヤさんは「PTSDに悩む退役軍人らは射撃をすると心を開き、いろいろな話をし始める。カイルも彼らと過ごす時間を楽しんでいた」と涙ながらに訴えた。

 4倍の陪審員候補

 自伝に基づく映画が公開中という異例の事態に対し、弁護側は公判前から審理に影響が及ぶと主張。裁判所も通常の4倍の数の陪審員候補を召喚し、映画を見たり、自伝を読んだりしたかを尋ねるなどの配慮をしたという。

 それでも弁護側は納得せず、「国民の記憶が薄まるまで裁判を先延ばしにするべきだ」と求めている。

 1月16日に米国で公開された映画は、今年度の米アカデミー賞で作品賞など6部門にノミネート。興行収入はすでに2億8500万ドル(約340億円)に上り、戦争映画としては「プライベート・ライアン」(1998年)を抜き史上最高を記録した。主演のブラッドリー・クーパーさん(40)は役作りのため18キロも体重を増やしたといい、カイルさんとの酷似も話題になっており、陪審員の心証に影響が出るのは避けられない。

 映画をめぐっては、保守層がカイルさんを英雄視し絶賛する一方で、リベラル層は「戦争の美化」と批判し、世論は二分している。裁判は2週間行われる。(SANKEI EXPRESS

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