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俳優はできない性分だったのに 短編映画集「破れたハートを売り物に」 甲斐よしひろさん、青山真治監督インタビュー
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九州男児の甲斐よしひろさん(左)と青山真治監督が映画で夢のコラボを実現した=2015年2月8日、東京都目黒区(蔵賢斗撮影) ≪ニコニコしても殺気持っている方 短編映画「ヤキマ・カナットによろしく」≫
青山真治(しんじ、50)、榊英雄(44)、長澤雅彦(49)、橋本一(47)、三島有紀子(45)-。気鋭の映画監督5人がロックバンド「甲斐バンド」の人気楽曲をモチーフにした短編作品をそれぞれ手がけ、28日午後5時から東京・お台場シネマメディアージュで短編映画集「破れたハートを売り物に」と銘打ち、ワンナイト特別上映を開催することになった。会場では甲斐バンドのライブも披露され、演奏の模様は全国13劇場に同時配信される。
この企画は、甲斐バンド結成40周年を記念したもので、映画全体を貫くテーマを「生きることを素晴らしいと思いたい」とした。この言葉は甲斐バンドの楽曲で映画タイトルともなった「破れたハートを売り物に」の歌詞でもある。目玉の一つがバンドを率いる甲斐よしひろ(61)が「甲斐祥弘」名義で銀幕デビューを果たしたことだ。出演したのは、青山監督の「ヤキマ・カナットによろしく」と榊監督の「父と息子」の2作品。「ヤキマ~」では、バーのカウンターでバーテンダー(片岡礼子)にくだを巻くスタントマン(光石研)を遠巻きに見ながら、静かにグラスを傾ける謎の客を演じた。
甲斐は幼少時代、家族でよく映画館に足を運んだ。「ぼくの家は商売をやっていまして、住み込みの職人さんがいっぱい出入りしていたんです。だから家族だけで過ごすことができるのは週末の映画館。オールナイトを家族で見に行って、その後に食事するというのが毎週の習慣でした。僕はよちよち歩きの子供の頃から映画を見ているので、映画館に行くと母親の胎内にいるような感じなんですよ」。自分の楽曲のプロモーションビデオを制作する際、編集手法からカメラの写し方に至るまですべてに口を出してきたのも、子供時代に培った映像への審美眼がバックボーンとなっていたのだ。
では、いずれは俳優として映画にも関わろうという気持ちもあったのだろうか。「昔から『映画を撮りませんか』『主演をやってみませんか』というお誘いは何回もいただいていました。20代から30代にかけてです。でも僕はすべてお断りしていたんですよ。僕の興味といえば専ら、すごい俳優たちの素晴らしい演技をスクリーンで見て『おー、すげーなあ』と感動を受けとる方に向いていたんです。あと、僕は現場の流れに合わせてずっと自分の出番を待つことなんかできない性分だし、家族も『絶対に映画俳優に向いていない』と言いますしね」
そんな甲斐を「いつも一緒に行くバー」で映画への出演を口説いたのが青山監督だった。2人は旧知の間柄で、同じ九州男児。お互いの微妙な気持ちを感じ取り、意見をすり合わせ、最後には一致させることなど、たやすいことで、青山監督に言わせれば、それも一瞬でできるという。「『出演をお願いします』と言ったとき、甲斐さんは『もう流れとしてそう(出演)なんでしょ?』と理解してくれていましたからね」。玉にきずなのは役柄の説明が舌足らずだったこと。「甲斐さんに『バーで急にハーモニカを吹く人』と切り出したら、『そんな客は普通いないだろう』といきなり突っ込まれてしまいまして…」。苦笑いを浮かべる青山監督に対し、甲斐は「でも作品を見たら、うまい編集だなあと思いましたよ。さすがです」と謝意を伝えた。
甲斐は根っからのミュージシャンなのだろう。演奏が演技に変わっても常に全力投球で最高のパフォーマンスを披露するスタイルに変わりはない。多くの俳優たちを相手にしてきた青山監督は、甲斐との意識のずれを反省点に挙げた。「最後に甲斐さんがハーモニカを吹く場面があり、僕は演奏シーンを2回お願いしたんです。実は1回目の演奏を撮っていませんでした。甲斐さんは『1回目の方がよかった』と言うのですが、僕は対応できません。
『今、やばいことをしてしまったぞ、俺は…』とぞっとしました」。甲斐は恐縮する青山監督をかばいながら、「ミュージシャンというものは“生もの”を扱う職業だから、パフォーマンスでは1回目からスイッチが入ってしまうものなんですよ」と解説してくれた。
青山監督が作品のテーマ曲に甲斐の「HERO(ヒーローになる時、それは今)」を選んだのは、それが憧憬(しょうけい)してやまない同郷の大先輩、甲斐の出世曲で、思い出深いものだったからだ。「子供の頃から聞いていた甲斐バンドが全国区になり、同じ九州は福岡県の人間として、それが子供心にうれしかったんです」。長じて後、映画監督となって対峙(たいじ)した甲斐の印象は「常に殺気を持っている方。ニコニコしていてもどこかに殺気が感じられるんです。怖くて油断なりません」。
「それは褒め言葉に聞こえるよ」と甲斐。何か一味違う自己表現の可能性を意識的に追求してきた結果と言いたげだ。10年後の甲斐はどんな方向へと突き進んでいるのだろう。「お客さんに変化を見せるのがプロフェッショナルだと思います。世界遺産の薬師寺でライブやったのもそうです。僕の変化を楽しんでもらえればうれしいですね」。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:蔵賢斗/SANKEI EXPRESS)
誰にも知られたくない過去を持つスタントマンのジョー(光石研)。ある日、スタントに失敗し大けがを負い、ぶらりと訪れたバーテンダー(片岡礼子)に鬱憤をぶつける。そこへジョーを追いかけていた組織の男(川瀬陽太)が現れ…。
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