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ダンス・ダンス・アジア in バンコク(下) スラムの子供と舞台に立つ
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ダンスカンパニー「東京ゲゲゲイ」のショーのテーマは女子校。女装したタイの人気ダンスチーム「THE_ZOO_Thailadnd」(ズータイランド)が舞台に姿を現すと大歓声が涌き起こり、ゲゲゲイのメンバーとのダンスバトルでは会場が揺れるほど熱狂した=2015年3月28日、タイ・首都バンコク・Mシアター(田中幸美撮影) ストリートダンスでアジアの国々との文化交流を進める国際交流基金アジアセンター(東京都新宿区)のプロジェクト「ダンス・ダンス・アジア」。第1弾は今年1~3月、東南アジア4カ国に10組のダンスカンパニーやダンサーが派遣された。プロジェクトの活動は公演とワークショップがメーンだったが、最後の派遣先となったタイ・バンコクでは、文化交流と呼ぶにふさわしい活動が行われた。
カリスマ性と独自の世界観を放つリーダー、MIKEY(マイキー)こと牧宗孝さん(32)率いるダンスカンパニー「東京ゲゲゲイ」が、バンコクのスラムに住む子供たちと、タイの人気ダンスチーム「THE ZOO Thailand」(ズータイランド)と共演を果たしたのだ。
プロデューサーを務めるパルコの中西幸子さんは「舞台作品を見せるだけでなく、プロジェクトの最終的な目標は一緒に作品を作ること」と話し、目標に向けた第一歩となった。
東京ゲゲゲイは1月のマニラに続いて2度目の参加。マニラでは下町に赴き、音楽を流して子供たちに踊りを教えながら一緒に遊んだ。最初はたった5人だったのがいつの間にか50人にふくれあがり、コミュニティーの長まで出てきて「来てくれてありがとう」と謝意を述べられたという。そこでマイキーさんは「次回のタイではもっと子供たちと触れ合いたいという気持ちが強くなった」と話す。
今回ゲゲゲイと共演したのはバンコク最大のスラムといわれる「クロントイ」地区に住む7~13歳の子供たち24人。この地区は狭いエリアに3万世帯、10万人がひしめき合って暮らし、劣悪な住環境、後を絶たない麻薬犯罪やエイズの蔓延(まんえん)など社会問題が山積する。犯罪に手を染めて親が逮捕され、片親だけの子も珍しくないという。
≪目を輝かせて楽しんで 「初心」思い出す≫
東京ゲゲゲイと共演する子供たちは、クロントイ地区のコミュニティー図書館を通じて募集した。この図書館は子供たちが安心して勉強したり、活動の拠り所とするために設立されたという。応募したほとんどの子供がダンス経験はなく、舞台に立つのも初めて。
練習は公演直前の3日間にわたり行われたが、途中で練習に来なくなったり、出演を渋る子は皆無だった。むしろ、練習の日は集合時間より前に集まり、みんなで自主練習するほどの力の入れようで、これにはマイキーさんも驚いていた。
図書館での練習風景をのぞいた。「ヌン、ソーン ヌン、ソーン」(タイ語で1、2の意味)と声をあげながら図書館の狭い廊下を元気よく行進。音楽が流れるとゲゲゲイのメンバーの動きに合わせて、リズムを取りながら体を横に揺らせたり、手をくねくね動かしたり。みんなとびきりの笑顔で楽しそうにダンスをしていた。
ゲイトちゃん(7)は「日本のお姉さんみたいなダンサーになりたい」と目を輝かせ、ビームさん(13)は「家でもたくさん練習をしました。将来はダンスの先生になりたい。伝統的なタイダンスよりこういう方が好き」と話した。
図書館を運営するシーカー・アジア財団の吉田圭助さん(36)は、「子供たちはこんなにすぐに踊れるようになるんですね。驚きました」と感激した様子だった。
練習後には子供たちとともにクロントイ地区を歩いた。迷路のような細い路地の両脇にトタン屋根の家が重なるように建っている。ため池には生活雑排水があふれ、異臭を発していた。地区内では麻薬取引などが絶えないため、通りの角には監視カメラが設置されていた。スラムにハイテク機器は違和感を覚えた。
マイキーさんはタイの子供たちとの触れあいで「純粋にただ楽しく踊っていた子供のころの感覚がよみがえり、こういう気持ちで自分はダンスを始めたのだと初心に帰ることができた」という。そして、「子供たちにとってある種の希望になってくれたらうれしい」と話した。
ダンス・ダンス・アジアのプロジェクトは2020年まで続く。第2弾ではどんなコラボレーションを見せてくれるのか期待したい。(田中幸美(さちみ)、写真も/SANKEI EXPRESS)