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追い込まれた俳優の狂気を熱演 マイケル・キートン 映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」

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追い込まれた俳優の狂気を熱演 マイケル・キートン 映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」

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米アカデミー賞授賞式の前日に行われた第30回インディペンデント・スピリット・アワード授賞式。主演男優賞を手中に収め、スピーチに臨むマイケル・キートン=2015年2月21日、米カリフォルニア州サンタモニカ(AP)  米国を代表する演技派俳優、マイケル・キートン(63)の出発点はコメディーだった。その後、名監督の下で地道な努力を続けた彼は、堅固で豊かな演技の引き出しを築き上げた。そんな彼が持てる最高の技をすべて惜しみなく吐き出したのが、主演のダークファンタジー「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、脚本と製作も担当)だった。

 本作は、かつて「バードマン」というヒーロー映画で一躍スターダムにのし上がった名優、リーガン・トムソン(キートン)が、つまらない過剰な自意識にもがき苦しみながら、ブロードウェーの舞台で再起を図るまでの物語。ハリウッド映画への皮肉をたっぷりと交えながら、俳優という職業の苦しみがシュールかつコミカルに描かれている。

 常に不安と対峙

 先の米アカデミー賞では最多タイとなる9部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞と主要部門を独占した。当のキートンといえば、米ゴールデン・グローブ賞・主演男優賞受賞(コメディー/ミュージカル部門)の勢いをそのままに、アカデミー賞の主演男優賞レースの本命と目されながら、最後の最後で新進気鋭の英俳優、エディ・レッドメイン(33)にうっちゃられてしまった“悲喜劇”が印象的だ。

 主人公と同様、その昔、ヒーロー映画「バットマン」シリーズで一世を風靡(ふうび)したキートンは「役者という職業は、注意していないと、毎日、どんどん不安が大きくなっていく。本質的に恐怖に基づいているんです。役者の中には『舞台の上だけが心地よい』と感じる人もいますよ。あのマイケル・ジャクソンがくつろげたのは舞台の上でした」と語り、演じがいのある役どころだったことを強調した。

 俳優とはそれほどまでに不名誉を恐れる人種なのだろうか。作中では心中に潜むバードマンとの対話という形でトムソンの自意識が表現されたが、キートンの考えはこうだ。「人間は不調なときもあれば、好調なときもあります。悲しいときも、愛情を注ぎたくなるときも、他人に思いやりの気持ちをかけるときも、自分のことにだけ夢中になるときだってあります。俳優の場合、自分に熱中する度合いが高いかもしれません。気をつけていないと、俳優はナルシストになってしまう可能性がありますからね。皮肉にも俳優とは本来、(別の人物になりきるという意味で)ナルシストとは一番遠いところにいることが多いものですけれど…」

 気づけば演じている

 作中、舞台に出演していたトムソンはアクシデントに見舞われ、ブロードウェーの劇場から締め出された結果、パンツ1枚でタイムズスクエアを駆け抜けることを強いられたシーンは圧巻で、トムソンは不名誉の極致を極めたと言っていい。「この演技こそ、俳優のすごいところだと思います。ただ、台本を初めて読んだとき、その行為自体のすごさや周囲の反響はあまり意識に上りませんでした。撮影が始まり、ふと気づくと演じてしまっている。恐らくほとんどの役者が同じように答えるでしょう。せいぜい『あのシーンは今日の撮影だ』と思うだけ。役者とは、一体どんな仕事で、どれだけクレイジーなんでしょうか…」。むしろ、キートンが気になったのは、劇場に戻ったトムソンが下着姿のままでどう演じればいいのかという部分。自分をかわいく思う気持ちなど意識の外に飛んでしまっていた。

 この作品に出合うまでしばらくキートンは俳優業から遠ざかっていた。「素晴らしい作品のオファーがなかったし、オファーが押し寄せていたわけでもなかったから。それが現実だし、私の仕事です」。もう一つ理由を挙げるとすれば、ミュージシャンとして成功した一人息子、ショーン・ダグラス(31)に自らの生きざまを見せ、人気商売に就く心構えを教えたかったからだ。「良いときもあれば、悪いときもあります。私の息子は今こそ成功しているけれど、『準備しておけよ。こんな風になるぞ。脇道にそれたり、人気が落ちたり、時の人になることもある。それでいいんだ』とね」。4月10日、全国公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS

 ■Michael Keaton 1951年9月5日、米ペンシルベニア州生まれ。82年のコメディー「ラブ IN ニューヨーク」で注目され、ティム・バートン監督の88年「ビートルジュース」で全米批評家協会賞を受賞。バートン監督と再びタッグを組んだ89年「バットマン」と92年「バットマン・リターンズ」で演技派俳優として地位を不動のものにした。監督、声優としても活躍。

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