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【佐藤優の地球を斬る】日本のみ狙う「韓流プチ帝国主義」
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韓国から帰国し、羽田空港で集まった記者の質問に答える産経新聞の加藤達也前ソウル支局長=2015年4月14日、東京都大田区(早坂洋祐撮影) 14日、韓国当局は朴槿恵大統領への名誉毀損(きそん)容疑で在宅起訴された産経新聞の加藤達也前ソウル支局長の出国禁止措置を解除した。この日夕刻、加藤氏は帰国した。8カ月にわたる出国禁止措置という異常な状態に終止符が打たれたこと自体は意味がある。韓国政府上層部に、「これ以上、日本との関係を悪化させることは、韓国の国益に反する」と冷静に考える人がいるので、こういう決断がなされたのであろう。
<外務省幹部は14日、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長に対する出国禁止措置を解除したことについて「当然のことだ。ずっと出国を認めろと言ってきたが、8カ月もかかった。(日韓関係が)ゼロからプラスになったわけではない。マイナスがゼロになっただけだ」と切り捨てた>(「産経ニュース」)。「マイナスがゼロになっただけだ」というこの外務省幹部の認識は甘い。加藤氏に対する裁判は、継続しているのだ。いまだ状況はマイナスである。マイナスの数値が少し減っただけである。
この8カ月の間に明らかになったのは、韓国が日本に対して「プチ(小)帝国主義政策」を取っていることだ。過去10年で、国際社会において、「新・帝国主義」的傾向が強まった。帝国主義国は、まず相手国の立場を考えずに、自国の利益を最大限に主張する。相手国がひるみ、国際社会も沈黙するならば、帝国主義国は強引に権益を拡大する。これに対して、相手国が必死になって抵抗し、国際社会が「いくら何でもやり過ぎだ」という反応を示す場合、帝国主義国は譲歩する。これは帝国主義国が反省しているからではなく、「これ以上、ごり押しをすると反発が強くなり、自国にとってマイナスになる」と冷静に計算するからだ。そして、国際環境が変化して、自国の権益が拡大できそうな状況が現れるタイミングを待つ。21世紀の新・帝国主義国は、植民地を求めないし、帝国主義国間の直接戦争を避ける傾向にある。しかし、帝国主義国としての本性に変化はない。
国際社会は米国、日本、英国、中国、ロシア、ドイツを基軸とするヨーロッパ大陸の連合国としてのEU(欧州連合)の新・帝国主義国と、それ以外の国々に分かれる。国際社会の「ゲームのルール」を形成するのは、新・帝国主義国だ。
韓国は、新・帝国主義国となる国力はない。ただし、新・帝国主義国が設定した「ゲームのルール」におとなしく従うほど、国力は小さくない。そこで、韓国は日本に対してのみ帝国主義的対応を取るというプチ帝国主義政策を取っている。そのときに利用されるのが、竹島問題、慰安婦問題などの歴史カードだ。
加藤前支局長の事件は、韓国がプチ帝国主義政策を日本に対して取っているという現実を可視化させた。仮に米国、英国、ドイツ、ロシアなどの新・帝国主義国のジャーナリストが、加藤氏が書いたのと同様の記事を書いたとしても、韓国当局が刑事事件化することはなかったと思う。自由と民主主義という普遍的価値観を、日本に対しては適用せずに、韓国は自国の主張を一方的に展開したのである。
加藤氏に対する裁判を継続している限り、韓国は国際社会から国際基準の人権と取材の自由が保障される国とは認知されない。この事件に対して、朴大統領は被害感情を表明していない。朴大統領が、「私は加藤氏の記事に対して名誉を毀損されたという被害者感情を持っていない」と言えば、起訴は撤回され、免訴となる。側近たちが朴大統領の歓心を買おうと忖度(そんたく)し起きたというのがこの事件の本質だと思う。それならば、朴大統領の政治決断で、日韓ののどに刺さったトゲとなっているこの事件を解決すべきだ。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)