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印最高裁、ネット中傷罰則条項は「違憲」

 インドの最高裁が今月24日、インターネット上で誹謗(ひぼう)中傷などをした者に最高で禁錮3年と罰金の刑事罰を科すことを定めた情報技術法の条項について、言論と表現の自由を侵害するとして違憲判決を下した。韓国では、産経新聞の加藤達也前ソウル支局長(49)がネット記事で朴槿恵(パク・クネ)大統領(63)の名誉を毀損(きそん)したとして在宅起訴され、長期にわたり出国禁止を強いられている。ネット上の表現規制の是非が、国際的な関心を集める中、インド司法の判断は議論に一石を投じることになりそうだ。

 「国民の知る権利を侵す」

 問題となった情報技術法66A条項は、2009年に発効したもので、パソコンやコミュニケーション機器を通じて侮辱的なメッセージを伝えることを禁じ、単に他人を怒らせたり危険に陥れたりする目的で虚偽とわかっている情報を送ることも違法だと定義している。

 政府は裁判で、「ネット上の情報は、紙媒体やテレビと違い、チェック機能や免許制度がない」として、厳しい規制が必要だと主張していたが、最高裁は条項を「国民の知る権利を侵すものだ」と判断した。

 最高裁はまた、条項にある「下品で中傷的」との表現があいまいであり、「ある人にとって中傷的かもしれない内容は、別の人にとってはそうではないかもしれない」として、当局にも違反者になる可能性がある人にも何が違反に当たるのか理解するのは困難だと指摘した。

 政府が条項を乱用することはないと主張したことについては、「政権が変わっても、条項は永遠に残る」として、政権交代が起きた時に現政府は新政府が条項の乱用しないと保証することはできないとの見方を示した。

 「いいね!」だけで逮捕

 インドでは2012年、商業都市ムンバイを抱える西部マハラシュトラ州の有力政治家の死を悼んだ州政府が公的業務を休止した際、州在住の女子学生、シャヒーン・ダダさん=当時(21)=がフェイスブック上でこれを批判し、書き込みに「いいね!」をクリックした友人の女子学生、レヌ・スリニバサンさん=当時(21)=とともに逮捕され、条項への批判が高まった。

 同じ年には東部、西ベンガル州の男性大学教授、アムビケシュ・マハパトラさんが、ママタ・バナジー州首相(60)の風刺画をEメールで送ったとして逮捕された。

 昨年6月には北東部シッキム州の女性ジャーナリスト、ミタ・ズルカさんが政治家をネット上で中傷したとされ、今月中旬にも北部ウッタルプラデシュ州の男子高校生が州政府閣僚のアザム・カーン氏をフェイスブックで中傷し、地域社会間の緊張を高めたとしていずれも逮捕されるなど、その後も、政府や政治家が“被害者”となる政治的な事案が相次いでいる。

 ただ、女子学生2人と男性大学教授、女性ジャーナリストはいずれも逮捕後に訴追されず、男子高校生も現在は保釈されている。

 「せいせいした」と印紙

 「いいね!」をクリックしただけで逮捕されたスリニバサンさんは最高裁の判断についてタイムズ・オブ・インディア紙に、「きょうはとても幸せだ。(逮捕から)2年たって、正義がもたらされたと感じている。もうだれも、正しいことを主張するのを恐れる必要はない」とコメントした。

 タイムズ・オブ・インディア紙は3月25日付の社説で、「せいせいした」との見出しで判決を支持し、「条項は、悪法であるだけでなく、法はまっとうに適用されてこなかった」と述べた。

 これまで政治的に適用されてきた例については、「被疑者の行いが公共や個人により大きな危険となるといった証拠はほとんどなかった。それなのに、いくつもの州当局はネットのコンテンツを封じるために独断的に条項を使ってきた」と分析した。連邦政府与党のインド人民党(BJP)についても、法が成立した野党時代には採択に反対しながら、昨年5月開票の総選挙で与党になると方針転換し、法を擁護していることを挙げ、「非論理的だ」と攻撃した。そのうえで、「条項を廃止した方がよい」と主張している。

 一方、ラビ・シャンカール・プラサド情報通信技術相(60)は地元テレビに「ただちに法をなくすとはいえない。議会で可決されたものだ。厳格なガイドラインを考えたい」としている。(ニューデリー支局 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS

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