SankeiBiz for mobile

TTP学校テロ1カ月 癒えぬ心の傷

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの国際

TTP学校テロ1カ月 癒えぬ心の傷

更新

1月14日、ペシャワルの病院に設置された、殺害されたアハマド・ナワズさんの弟の死を悼む横断幕=2015年、パキスタン(岩田智雄撮影)  【国際情勢分析】

 パキスタン北西部ペシャワルにある軍系の学校がイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」のテロに遭い、子供を中心に約150人が殺害された事件から16日で1カ月になる。学校は再開したものの、生徒や教師の心の傷は癒えていない。残虐な犯行への市民の怒りを受け、政府は対テロ政策を強硬に推し進めている。

 「宗教語る資格ない」

 「あいつらに名前などない。ただの殺人者だ」

 事件当時、銃弾3発を浴び、今もペシャワル市内のレディー・リーディング病院で入院生活を送る男性英語教師、アルタフ・フセインさん(41)は看護師の制止を遮り、怒りに満ちた大声を絞り出した。

 同じ学校に通う小学1年生の娘(6)を抱いていたところ、テロ犯が娘を奪い取り、頭を撃って“処刑”した。今も娘の感触が残る両手を見つめて、黙りこくることが多く、精神的に不安定な状態が続いている。

 タリバン運動がシャリーア(イスラム法)に基づく統治を唱えていることに、「やつらに宗教を語る資格などない。心も感情も持たない動物だからだ」と吐き捨てた。

 学校は軍が経営し、軍人の子供も通うが、多くの生徒は一般家庭の出身だ。同じ病院に入院している男子生徒、アハマド・ナワズさん(15)もそうで、多くの生徒が犠牲になった講堂で左腕に銃弾を浴びた。心配して駆け寄ってきた弟(14)は頭を撃たれて殺害された。もうこの学校には戻りたくないという。

 「タリバン運動との和平なんて無理だ。力で排除することもできない。あいつらをのさばらせてきたパキスタンに失望した。日本で働いているおじさんが、日本は平和な国だといっている。退院したら日本の学校に行きたい」と訴えた。

 生徒にカウンセリング

 12日に再開した学校の校門付近には検問所が設置され、兵士25人以上が常時、人や車の出入りを入念に調べるなど警備に当たっている。メディアは門の数百メートル前までしか近づけない。

 殺害された学校長の代行、モハンマド・タリク氏によると、学校には高さ約5メートルの壁が事件後築かれ、その上には有刺鉄線が張り巡らされている。約20人の生徒がケガのため、まだ登校できていない。傷ついた生徒らの心を回復させるのが課題で、専門家がカウンセリングを行っている。講堂は生徒には使用させず、新たな施設を建設中だ。

 事件の衝撃は、多くの国民を反タリバン運動へと突き動かした。タリバン運動との対話による和平を唱えていたクリケットの元スター選手、イムラン・カーン氏(62)率いる政党、パキスタン正義運動は軍事作戦の支持に転じ、首都イスラマバードで約4カ月間続けていた反政府デモを中止した。

 新たな犯行予告

 テロ掃討作戦を続けてきたナワズ・シャリフ首相(65)は、テロ犯死刑囚に対する死刑の一時停止を撤廃し、20人余りが処刑された。対テロ行動計画の策定作業にも取りかかり、テロ犯を裁く軍事法廷を設置するための憲法改正を行った。一般法廷の判事が報復を恐れてテロ事件の司法手続きを進めず、テロ容疑の被告が釈放される事案が相次いでいたためで、国内に9つの軍事法廷を設置する予定だ。

 一方で、タリバン運動は、「ペシャワルの攻撃を忘れさせるほどのことをする」と新たな大規模テロを予告し、国民の怒りを増幅させている。

 政治・安全保障問題評論家のマフムード・シャー元准将は「テロはタリバン運動と交渉すべきだといっていた政治家の態度をがらりと変えてしまった。軍が法廷まで関与するのは本来好ましくないが、実行する以外にない」と話している。(ペシャワル 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS

 ■ペシャワル学校テロ 昨年12月16日、パキスタン政府のテロ掃討作戦の報復だとしてイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が北西部ペシャワルの「陸軍パブリックスクール」を襲撃し、生徒や教師を殺害した事件。学校によると、犠牲者は生徒124人、教師10人、学校職員など計151人。テロ犯数人は全員、自爆するか治安部隊に殺された。

ランキング