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インドを刺激する中国潜水艦

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インドを刺激する中国潜水艦

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アデン湾  【国際情勢分析】

 中国の潜水艦が9月、スリランカに初めて寄港したことが確認され、南アジア地域での中国の軍事的台頭を警戒するインドを刺激している。中国は、スリランカなどインド洋周辺国で港湾整備を支援する「真珠の首飾り戦略」を進め、インドは、この戦略が将来の中国艦船寄港につながるとみてきたからだ。インド政府は最近、訪印したスリランカ国防次官らに強い懸念を表明した。

 スリランカに寄港

 中国やインドでの報道によれば、潜水艦が寄港したのは、9月15日。通常動力型の宋級潜水艦だった。ソマリア沖やアデン湾で海賊に対処している中国海軍に合流する途中で、コロンボ港に寄った。潜水艦が寄港する前の7~13日には、別の中国艦船もコロンボ港に停泊していたという。

 潜水艦寄港翌日の16日には、中国の習近平国家主席(61)がスリランカを国家主席としては28年ぶりに訪問しており、こうしたタイミングでの寄港に政治的意図があったことは間違いない。

 習主席は、スリランカのマヒンダ・ラジャパクサ大統領(68)と会談し、両国の行動計画が発表された。これには、自由貿易協定(FTA)の正式交渉の開始をはじめ、海洋監視や沿岸管理で協力する実行可能性を探るための合同委員会の立ち上げも盛り込まれた。

 中国はこれまで、スリランカのコロンボ港や南部ハンバントタ港の整備を支援してきた。今後も、コロンボ沖合を埋め立てる「ポートシティー」建設に、14億ドル(約1500億円)を支援することになっており、習主席は17日の起工式に出席した。ラジャパクサ大統領は、習主席が提唱する「21世紀の海上シルクロード」整備への支持と参加を表明した。

 お構いなしの習主席演説

 中国とスリランカの接近に対するインドのいらだちは、並大抵ではない。

 ラジャパクサ大統領の弟のゴトバヤ・ラジャパクサ国防次官(65)は10月20日、ニューデリーで、インドのアルン・ジャイトリー国防相(61)らと会談し、インド政府高官は、ヒンズー紙に「中国潜水艦のスリランカ寄港問題を取り上げるための会談が行われた。寄港は、インドの安全保障にとり、深刻な懸念だ」と述べた。

 習主席はスリランカ訪問の後、インドも訪れている。中国のインド洋周辺地域への影響力拡大を恐れるインドは「21世紀の海上シルクロード」整備には一切、支持を表明せず、9月18日のナレンドラ・モディ首相(64)と習主席の共同記者会見は、笑顔のないぎすぎすしたものとなった。

 一方の中国は、インドの警戒にはお構いなしの様子だ。習主席は会談翌日の19日にニューデリーで行った演説で、中印協力の重要性を訴えつつも、「中国と南アジア諸国は重要な協力パートナーだ。利用されることを待つ多大な富があり、中国と地域の国々との協力を楽しみにしている」と述べ、今後もスリランカを含む南アジア諸国への関与を強めていく決意をあらわにした。また、「中国は南アジアの最大の隣国であり、インドは南アジア最大の国家だ。中国はインドと手を携えることを心待ちにしている」とも述べた。

 「近隣国と協力拡大を」

 習主席は、インドが最も嫌がる南アジアへの影響力行使を堂々とインド側に突きつけ、中国の台頭を認めるよう迫る意図を、演説に色濃くにじませたといえる。

 インドのシンクタンク、オブザーバー研究財団のラジャ・モハン研究員は、10月29日付インド紙インディアン・エクスプレスのコラムで、「台頭する中国は、インドの近隣国にとり、最も重要な域外パートナー国になっており、インドは単に中国の影響力がなければいいと思えばよいのではない。近隣国に越えてはならない線を引き、公然と圧力を加えてもうまくいかないだろう」と指摘した。

 そのうえで、「南アジアで中国の安全保障の範囲と構造を限定する唯一の方法は、すべての近隣国に国防分野を含めたインド自体の協力を拡大することだ」と提言している。(ニューデリー支局 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS

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