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「レイプ犯にされた」男性 インドで急増
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首都ニューデリーの家庭裁判所の庭で非政府組織「家族救済協会」が開いた相談集会。レイプ事件で無罪を訴える男性らが集まっていた=2014年7月19日、インド(岩田智雄撮影)
レイプ被害が深刻なインドで、取り締まりの法律が厳格化されて以降、女性側による虚偽申告や法の拡大解釈による訴えが急増している。裁判では無罪判決が相次ぐ。非政府組織(NGO)が開設した電話相談のホットラインには、カネ欲しさや報復で被告にされたといった訴えが次々と寄せられている。
首都ニューデリーの家庭裁判所の庭に、レイプ事件で無罪を訴える男性ら約50人が集まっていた。NGO「家族救済協会」が開いた相談会を頼ってきた人たちだ。“被害者”の家族の女性の姿もある。
市内で宝石店を営むアナンド・ソニさん(49)は、電話での相談の後、毎週土曜日に開かれているこの集会にやってきた。ソニさんの説明によると、息子が昨年(2013年)11月に見合い結婚をした。家族は誰も知らなかったことだが、息子は性的不能の病を抱え、夫婦関係は1カ月もたたずして破綻した。
今年6月、ソニさん一家は衝撃を受けた。息子の妻だった女性が、結婚4日後に義父にレイプされたと警察に「虚偽の被害」を届け出たのだ。女性の損害賠償要求を断ったことへの報復とみられる。ソニさんは「警察は女性の訴えをほとんど信用しなかった」と言うが、起訴され、裁判は進んでいる。
救済協会が今春開設したホットラインには、4カ月弱で2万2000件以上の電話相談があった。集会は、ムンバイやコルカタなどでも行っており、来訪者が後を絶たない。
別の男性の場合はこうだ。3年前にある女性と見合い結婚したものの、折り合いが悪く、女性から「1人でシンガポールに遊びに行きたい」と多額のカネを要求された。男性が「後で一緒に行こう」と応じると、女性は実家に帰ってしまった。昨年(2013年)、男性が離婚を持ちかけたところ、今年4月になって警察から電話があり、男性の父親(73)が女性から「ありもしない」レイプ未遂、家族全員がダウリ(結婚持参財)の不当要求で告訴されていると伝えられた。
こうした訴えが急増するきっかけとなったのは、2012年12月、私営バスの中で女子学生が集団レイプされた揚げ句に残忍な暴行を受けて死亡した事件を受けた法改正だ。当時、反レイプ運動が盛り上がり、レイプ犯罪は、警察が物的証拠や医師の診断がなくても被害女性の証言だけで被疑男性を逮捕できるようになった。未成年の被害者が対象だが、成人にも準用されている。警官は訴えを放置すれば、停職などの処分を受ける。
政府の統計などによれば、デリー首都圏でのレイプ事件の届け出は13年に1636件。3年で3倍余に増えたが、1審で審理された事件の有罪率は12年が50%ほどで、13年は23%しかなかった。
インド紙ヒンズーが最近、独自に調査した興味深いデータがある。13年にデリー首都圏の1審で審理された583件を独自に調べたところ、原告が出廷しないなどの理由で公判が打ち切られて無罪となったものが2割に上った。地域社会の圧力で訴えが取り下げられたとみられるものもあったが、一部では、女性がカネ欲しさや不動産の所有権争いのために虚偽申告をしたことが明らかになった。
判決に至った残る460件のうち、異なるカーストや宗教などを理由に親に結婚を反対された男女が駆け落ちし、女性の親が告訴38%▽性的関係を持ったのに結婚の約束が履行されず告訴24%-と、男性への報復といえるケースも目立つ。これらは、ほとんどが無罪となった。
救済協会では、被害を訴える男性に、裁判で女性側のカネの要求には決して応じず、無罪になるまで戦うよう助言している。弁護士のアロク・ラタン氏は「法の厳格化は市民感情を反映したものだが、法はそもそも、そうあるべきではない。今の法律は、男性にあまりにも厳しい。虚偽の訴えが明らかになっても通常、女性側は罪に問われない」と指摘する。
救済協会の調整役、アミット・ラカニさんは「逮捕された男性は、仕事を失ったり、社会的名誉を傷つけられたりする。性犯罪や性的いやがらせを取り締まる法律に至っては、被害者を女性だけに限定しており不公平だ」と訴えた。
ただ、インドで凶悪なレイプ事件が多発していることも事実だ。ジャワハルラル・ネール大のスネハ・バナジー上級研究員は「男性人権団体の運動によって、女性を暴力から守るための法律が弱体化されるべきではない」と、本来の女性保護の取り組みが後退することを懸念している。(ニューデリー支局 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS)