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不正とテロに揺れるアフガン大統領選
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アフガニスタンのアブドラ・アブドラ元外相(共同)
アフガニスタンで初めての民主的な政権移行を実現する大統領選が、相次ぐ不正告発とテロで揺れている。今月(6月)14日に行われた2候補による決選投票では、双方の陣営が相手候補の不正を告発し、選挙管理委員会の事務局長が辞任する事態に発展した。イスラム原理主義勢力タリバンは各地で、治安部隊や市民へのテロを繰り返している。
大統領選は4月5日に初回投票が行われたが、過半数を得た候補がいなかったため、得票率45.0%で首位だったアブドラ・アブドラ元外相(53)と31.6%で2位となったアシュラフ・ガニ元財務相(65)による決選投票にもつれ込んだ。
アブドラ氏は決選投票後の6月18日、選挙で不正があったことに不満を表明し、選管に開票作業をただちに停止するよう求め、開票の監視作業から陣営のスタッフを引き揚げさせた。また、決選投票当日、選管事務局長のジアウル・ハク・アマルヘイル氏の警備担当者がカブールの選管本部から車で無断で投票用紙を運び出そうとして、警察に止められたことが明らかになり、アブドラ氏はアマルヘイル氏の更迭を要求した。
その後、選管は開票作業を続け、アブドラ氏の要求を拒否していたが、地元テレビが22日、アブドラ氏の陣営が不正の証拠として提出したアマルヘイル氏とされる人物の録音音声を放送した。
アマルヘイル氏とされる人物は、「ヒツジを持ってこい。カラにするな」「彼らはヤギを詰め込むために雇われた」と話している。ヒツジは投票箱、ヤギは票を意味しているという。
このほかにも、アマルヘイル氏とされる人物が東部ガズニ州知事を「自分たちの仲間だ」と述べたり、電話で何者かに、ガズニ州知事に対してすぐに州に戻って警察本部長に協力しろと伝えるよう指示を出したりしていた。アマルヘイル氏は23日、記者会見し、疑惑を否定したものの「国益のため」として辞任した。
アフガン・メディアは、対抗馬のガニ氏の陣営が告発したアブドラ氏側の不正を示す映像も報道している。
映像では、決選投票当日、中部パルワン州で選管職員がアブドラ氏の票を箱に詰める様子が写っている。この中で、選挙監視員が選管職員に対し、8人しか投票に来ていないのに、200人もの有権者が登録されていることを問いただしている。
アフガンではこれ以外にも、複数の告発映像や音声が報道されている。
アブドラ氏は、アマルヘイル氏の辞任を受け、記者会見で「対話の扉は開かれた」と述べ、やや柔軟な姿勢を示した。また、アフガン・メディアによれば、25日には開票作業の監視作業を再開させたといい、混乱は収まる気配を見せつつあるが、今後も不正をめぐり混乱する恐れはくすぶっている。
一方、国防省のザヒル・アジミ報道官は(6月)15日、決選投票当日にタリバンなどによる選挙妨害テロが506件に上ったと明らかにした。治安要員18人が死亡し、74人が負傷。市民の死者は33人、負傷者は63人で、被害規模は4月の初回投票時を大きく上回った。治安部隊側もタリバンのメンバー176人を殺害し、93人を負傷させたという。
テロ攻撃はその後も続いている。25日にはカブールの空港を標的にロケット弾が撃ち込まれ、被弾した付近の住宅にいた市民4人が負傷した。南部ヘルマンド州では、治安部隊とタリバンの激しい戦闘があり、25日までの5日間で市民35人と兵士21人が死亡、2000家族が避難した。タリバン側の死者は100人を超えた。
決選投票に進んだ、アブドラ、ガニ両氏はいずれも腐敗根絶やタリバンとの和解を訴えているものの、いずれもその主張には具体性を欠いている。2001年のタリバン政権崩壊後、アフガンでは内戦からの復興と民主国家建設の取り組みが国際社会の支援で進められてきたが、アフガンが抱える問題の本質は、当時から何も変わっていないといえそうだ。(ニューデリー支局 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS)