ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
国際
スリランカを手繰り寄せるモディ印政権
更新
スリランカのマイトリパラ・シリセナ大統領(63)がインドを初訪問し、両国関係の再構築に乗り出した。1月の大統領選で、中国への依存を深めたマヒンダ・ラジャパクサ前大統領(69)を破ったシリセナ氏は、大統領就任後初の外遊先にインドを選んだ。来月には中国を訪問する予定で、アジア主要国とのバランス外交を進める意思を鮮明にしている。
シリセナ氏は15日にインドに到着し、16日にナレンドラ・モディ印首相(64)と会談した。両国は、核エネルギーの平和利用での協力合意文書に調印し、専門知識などを共有する。インドはスリランカとポーク海峡をはさんだ対岸のタミルナド州クダンクラムに原子力発電所を持ち、スリランカは、かねて安全性に懸念を表明してきた。
インドとしては、安全管理の知見をスリランカに伝えるとともに、将来、予想されるスリランカの原発建設に協力する足がかりを作り、領土問題などで対立する中国やパキスタンの関与に歯止めをかける狙いがあるとみられる。
会談後の共同記者会見で、モディ氏は「われわれの安全保障と繁栄は不可分だ」「国防と安全保障での協力拡大で合意した」と述べ、軍事的に台頭する中国を牽制(けんせい)した。また来月に、スリランカを訪問することを表明した。シリセナ氏も両国の「関係強化」を訴えた。
シリセナ政権を自国側に手繰り寄せようとするインドはかねて、隣国、スリランカを勢力圏内に置いてきた。スリランカの少数派民族タミル人の旧反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)と多数派シンハラ人主導の政府との対立に関与し、内戦下の1987~90年に、平和維持部隊を派遣した。
91年には、タミルナド州で選挙運動中のラジブ・ガンジー元首相(当時46歳)が、LTTEの女性自爆犯に介入の報復として暗殺されるという辛酸もなめている。インドはこの約4半世紀、国際会議を除いて首相がスリランカを訪問しておらず、事件の衝撃の大きさを物語る。
一方、中国は近年、インド洋周辺国で港湾整備を支援する「真珠の首飾り戦略」を進め、インドは将来の中国艦船寄港につながると警戒してきた。最近は、潜水艦がスリランカのコロンボ港に2度にわたって停泊したことが初めて明らかになり、影響力拡大が顕著になっている。
中国の習近平主席(61)は昨秋、国家主席としては28年ぶりのスリランカ訪問を果たした。ラジャパクサ氏は習氏が提唱しインドが警戒する「21世紀の海上シルクロード」構築への参加と支持を表明し、中国傾斜を鮮明にした。
中印両国の綱引きが続く中、シリセナ氏はインドとの関係強化を図っても、最大の支援国である中国を重視する考えには変わりがないようだ。
大統領選前からラジャパクサ政権の親族登用や汚職疑惑を強く批判し、前政権が中国からの借入金で行っているインフラ開発を念頭に多額の資金が一部の人間に渡ったと主張しているものの、インド、中国、パキスタン、日本の順に国名を挙げ、特にこの4カ国との友好関係を強化するバランス外交を進める方針を示している。
最近、インドを訪問したばかりのスリランカのマンガラ・サマラウィーラ外相(58)は今月27、28の両日、中国を訪問し、中国の王毅外相(61)と会談する。インドのPTI通信によれば、シリセナ氏は来月26日に始まる中国政府主導の国際経済会議「ボアオ・アジア・フォーラム」に出席するため訪中し、習主席との首脳会談に臨むという。
中国外務省のホームページによれば、華春瑩(か・しゅんえい)報道官(44)は今月17日の記者会見で、「スリランカとインドはともに、中国の重要な友好的隣国だ。中国は、平和と繁栄のためにインドとともに戦略的で協力的なパートナーシップをいっそう深めたいと望んでいる」と述べるとともに、スリランカとも、同様の関係を育みたいと表明した。
そのうえで、「中国とインドの関係、中国とスリランカの関係がともに発展する勢いが続くことを希望する。スリランカとインドの関係が着実に成長することを歓迎する。3つの関係が適切な交流を通じて互いに促進しあえば、地域の平和と安定、発展への利益となる」として、冷静な姿勢を強調した。
東シナ海や南シナ海で、日本やベトナム、フィリピンとの緊張が高まる中、インド、スリランカとの関係が悪化しないよう細心の注意を払っているといえそうだ。(ニューデリー支局 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS)