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絶対にいい車を作る! ホンダ技術陣がベスト尽くした「アコードHV」

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絶対にいい車を作る! ホンダ技術陣がベスト尽くした「アコードHV」

更新

アコードHVの運転席の各種操作ボタンなど 【開発物語】

 ≪STORY≫

 国内市場では近年、小型車、軽自動車に注力してきたホンダが、久々に本格的なセダン「アコードハイブリッド(HV)」を先月発売した。新たに独自のハイブリッド技術「スポーツハイブリッド i-MMD」を開発。ガソリン1リットル当たり30キロという軽自動車並みの燃費性能を実現した。

 「開発者一人一人がベストを尽くさなければ作れない車だ」

 アコードHV開発責任者の二宮亘治主任研究員は担当を命じられた際の思いをそう振り返る。

 アコードは、1976年に初代モデルが誕生。これまでに世界160カ国で販売されて累計生産台数が約1920万台に達した大ヒットモデルだ。国内でも118万台以上を販売し、長く看板車種に位置付けられた。

 ただ、国内はミニバンや小型車、軽自動車が市場の主流となり、近年はセダンは不振を極めている状況。アコードの販売台数も2012年は2300台弱まで落ち込んでいた。

 そんなホンダ車の本流とも言える重要な車の復活へ向け、開発の担当を任された二宮研究員は「『絶対にいい車を作ろう』という意気込みと重い責任を感じた」という。

 二宮研究員は「アコードHVの開発にあたっては、エンジンやデザインなどの部門ごとに目標を設定させた。特に重要だったのが、圧倒的な燃費性能を実現するためのハイブリッドシステム。この開発責任者を務めた島田裕央主任研究員が打ち立てた目標が「世界最高の効率のハイブリッドシステムを製造する」ことだった。

 「競合他社と似たものを作るのはホンダの文化が好まない」(島田主任研究員)。念頭に置いたのはHVで先行するトヨタ自動車のシステムとの差別化だ。「独自のものを作ろうと最初からみんな張り切っていた」と振り返る。

 トヨタと同様に走行用と発電用の2つのモーターを搭載するシステムながら、トヨタがエンジンとモーターの配分を常に最適に制御するのに対し、ホンダはあくまでモーターを動力の主体と位置付けた。低速走行中はエンジンを止めたままモーターで走行。加速時やバッテリー容量が少なくなるとエンジンで発電し、加速や充電に利用する。高速走行時にはエンジンだけで駆動させる。それらをバッテリー残量などの環境変化に応じて巧みにマネジメントする。

 その中で、究極の効率化を目指し、エンジンとモーターの回転数を車が自動的に調整し、最も効率的な回転数である「スイートスポット」に自動的に近づける技術の導入に成功。例えば、ドライバーが出した速度がエンジンの理想的な燃費効率に達さない場合、自動的に速度を変えずに回転数を増やして理想の燃費効率にし、余った電力をバッテリーに充電する。

 「システム全体の効率目標や個々のエンジン、モーターの効率のどれか一つでも落ちこぼれると、エンジン全体の効率の低下につながる」(島田主任研究員)。テスト走行では、システムがうまく作動せずに試作車が停止してしまうこともしばしばあったという。

 それでも、「失敗しなければ成功はない」(同)と、システムの改善に取り組み、電機メーカーの社員と部品のコイルの巻き方まで工夫した試行錯誤を重ね、ついに信頼に足るシステムに仕上げた。

 セダンの復権へ、目指したのは燃費性能だけではない。ホンダ車ならではの走る楽しみも追求した。

 走行の安定性を高める上では、コーナーリング時の姿勢をコントロールし、操縦の安定性を高めるフロントサスペンションや車の振動を吸収する振幅感応型ダンパーを新たに採用した。これによって「これまでのホンダ車でもトップクラスの走行安定性を実現した」(二宮主任研究員)。

 デザイン面では、上質感だけでなく、環境性能などにも配慮した微妙なバランスにもこだわった。「爽快」「先進」「上質」の3つを主要なテーマに掲げ、上から見て「たる型」となるフォルムを採用。エクステリアデザインを担当した奥本敏之主任研究員(44)は「奇をてらい過ぎず、真面目過ぎない。ちょうどいいバランスに持っていくのが非常に難しかった」と話す。

 各メーカーが競って導入を進める安全技術も高度化した。開発にあたっては、衝突する危険のある障害物を検知して自動停止したり、減速する「進化型CMBS(衝突軽減ブレーキ)」を初めて導入。これまで一部のホンダ車に導入されていたシステムでは、時速15キロ以上で走行していた場合に限って作動したCMBSの自動ブレーキを、アコードHVでは時速5キロ以上に拡大するとともに、先行車両との速度差が一定以下の場合には自動ブレーキだけで停車できるようにした。

 さらに、車間距離が狭くなるとハンドルを振動させてドライバーに注意喚起する技術や、対向車線を走る車との衝突の危険が生じた場合に、ハンドルが自動的に作動するシステムも導入した。

 安全システムを担当した浦井芳洋主任研究員は「現状でベストのものができた。ホンダの技術陣の蓄積があったからこその成果」と自負する。

 各部門の開発担当者者たちが総力を結集して創り上げたアコードHV。だが、「新しい技術に挑戦し、よりよいものを作っていくのがホンダらしさ」(二宮主任研究員)との言葉通り、開発担当者たちはさらなる高みを目指し、新車の開発に取り組み続ける。

 ≪TEAM≫

 高い目標設定 努力が成果に反映

 アコードHVの開発で大きな障害となったのが、東日本大震災だったという。

 大震災の揺れはアコードHVの開発施設のあった栃木県を襲い、一部の施設で停電し、テスト設備などが使えなくなったという。主力車の開発期間が延びれば、全体の経営戦略に与える影響も少なくない。

 このため、ホンダの技術陣は社外の会議室を借りた上、停電を免れたカラオケ店のパーティールームなども活用して開発を継続した。パーティールームの大型モニターにパソコンをつなぎ、カラオケルームで議論を重ねた当時を、島田研究員は「ホンダらしく土壇場を乗り切った」と振り返る。

 だが、その後もなお開発チームの苦闘は続いた。

 「アコードHVにはたくさんの新技術が詰まっている。開発段階では、それぞれの部分では出ていた性能が、一つの車に組み立てた段階では出なくなるということがよくあった。各部分の交通整理が難しかった」(二宮主任研究員)という。

 テスト走行で走行中に試作車が止まってしまったときは「あまりにも目標値が高すぎたかなと思うこともあった」(島田研究員)が、妥協することなく開発を続けた。開発陣が当初掲げた目標をほとんどの項目で達成した。

 「技術開発は努力した分が成果に反映する。頑張れば頑張るだけ数字は上がっていく。部門ごとに高い目標値を掲げ、それを達成し続けたからこそ、アコードHVの高い性能を実現できた」(二宮主任研究員)。

 アコードHVは販売面でも順調な快走を続けている。二宮主任研究員は「アコードHVがセダン復権の試金石にという思いでやってきた」とした上で「この車の開発で培った技術と頑張りを、これからの新車の開発にも生かしていきたい」と話している。

 ≪MARKET≫

 セダン復権の試金石 ライバルも注視

 ホンダの伊東孝紳社長は6月20日、都内で開いたアコードHVの発表会で「対トヨタということにあまり関心を持っていない」と述べたが、アコードHVの有力なライバル車とみられているのはトヨタ自動車のHVセダンの「クラウン」や「カムリ」だ。

 アコードHVの燃費はガソリン1リットル当たり30.0キロメートルの走行距離を実現。同23キロメートル台の「クラウン」や「カムリ」を大きく上回った。

 当初予想を上回る売れ行きだが、最近の日本自動車販売協会連合会(自販連)が発表する新車販売ランキングの上位は軽自動車や小型車が占める。日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽協)によると、2012年度の国内新車販に占める軽自動車の割合は前年度比2.4ポイント増の37.9%で、統計を取り始めた1967年以降で、過去最高だ。

 最近のランキングで、セダンが上位に食い込むことはほとんどなく、アコードHVがその常連になる可能性も高いとはいえない。それでも、「日本はHVの重要性の理解が進んでいる。どんどん伸びていくだろう」と伊東社長は確信。高度なHV技術を核とした独自の環境、安全技術を駆使したセダンが、今後、さらに日本のドライバーに受け入れられるとみている。

 軽自動車への人気が一層高まりつつある状況下でのアコードHVの販売動向は、セダン復権の行方を占う上での試金石となり得るだけに、業界他社も注視している。

 ≪FROM WRITER≫

 試乗したアコードHVの車内は高級セダンらしいゆったりとした広さで、乗り降りにも配慮したきめ細かな設計の意図が垣間見えた。木目調のパネルなどの内装は上質な雰囲気を醸し出しており、フロントピラーの位置や形状も広い視界を確保している。非常に快適で運転しやすい車内空間だと感じた。

 スターターボタンを押すと、すぐに目の前のパネルに“READY”と表示された。レバーをDレンジに入れると電気自動車(EV)モードで発進し、とても静かに走り出した。ハンドルは安定していて、非常に滑らかな走りだ。

 車はアクセルの踏み込む強さなどを判断し、必要になれば自動的にエンジンを始動させ、走行速度などの必要に応じてハイブリッドモードやエンジンモードに切り替わる。切り替わる際の振動などはまったく感じない。

 近頃は軽自動車や小型車に人気が集中し、自動車各社もそういった車の開発に注力し、取材で軽自動車に乗る機会も多くなっている。だが、改めて高級セダンに乗ってみると、セダン特有の安心感や快適性が実感できた。これだけ燃費がよければ、ガソリン代をあまり気にせず走れるだろう。(佐藤裕介)

 ≪KEY WORD≫

 アコードハイブリッド

 ホンダが6月21日に日本で先行発売した。新開発の2000ccエンジンと2つのモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用。価格はベースグレードの「LX」で365万円、車両が危険を感知すると自動でブレーキをかける衝突被害軽減ブレーキシステムを搭載した上位グレードの「EX」で390万円。

 企業や官公庁向けにプラグインハイブリッド車(PHV)「アコード プラグイン ハイブリッド」(価格は500万円)も販売している。発売後1カ月で約7000台を受注した。

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