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日本の新幹線技術を売り込め 印高速鉄道計画めぐり各国アピール
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インドで高速鉄道の整備構想が進んでいる。ニューデリーやムンバイなど主要都市を走る7路線が計画されており、日本をはじめ、フランスやスペインなどが自国の技術の売り込みにしのぎを削る。
こうした中、最優先で整備される予定の路線の起点となる西部グジャラート州アーメダバードで2月、日本は官民一体の「インド高速セミナー」を開き、政府や企業の幹部がトップセールスで売り込みを図った。
「日本の新幹線は開業以来、乗客の死傷者がゼロ。環境性にも優れ最適でしょう」。2月11日に開かれたセミナーで、梶山弘志国土交通副大臣はインド側に新幹線の魅力を訴えた。
会場には、インド政府やグジャラート州の幹部が並び、この後も新幹線車両メーカー、川崎重工業の大橋忠晴会長や新幹線を運行するJR東日本の石司次男(せきじ・つぎお)副社長らが熱弁を振るった。
インドの高速鉄道計画は2009年に発表された。現在、プネ-ムンバイ-アーメダバード(約680キロ)やデリー-アグラ-ラクノー-バラナシ-パトナ(約1000キロ)など7路線が計画され、4路線を20年までに事業化することを目指している。
路線ごとに事前事業化調査が進行中で、アーメダバード路線は仏企業が受注した。事業費は6000億~7000億ルピー(約1兆~1兆2000億円)規模とされる。今後は正式な事業化調査を経て、事業の発注が行われるという流れになっている。
アーメダバード路線では、日本は当初、フランスに後れを取ったが、その後、巻き返しに出ている。グジャラート州が企業誘致のために開く2年に1度の投資イベントでパートナー国を続けており、同州には日本企業専用工業団地の建設が進められている。
ナレンドラ・モディ州政府首相は今回のセミナーで講演し、「グジャラート州はここ数年、インドと日本の将来の協力に向けて日本の信頼を得るために多大な貢献をしてきた。高速鉄道計画にとって利益となるだろう」と日本にエールを送った。
モディ氏は印最大野党、インド人民党(BJP)の連邦政府首相有力候補の一人でもある。スピーチは、日本側を「インドと日本が互いに了解できる、良い関係をつくれることに自信を持っている」(川崎重工の大橋会長)などと大いに喜ばせた。
印与党、国民会議派を率いるシン首相も昨年11月にカンボジアで行われた野田佳彦首相(当時)との会談で、日本の新幹線システムの採用を念頭に両国間で具体的な協議を進めていくことで一致した。日本にとっては前向きなニュースが続いている。
ただ、インドで高速鉄道構想を具体化させるには、課題も山積している。
セミナーでは、インド鉄道省当局者が資金確保の難しさを強調した。JR東の石司副社長は「1時間に1本しか走らせないのであれば、日本のようなシステムはいらない。そんなオーダーメードをできるのが、日本の強みだ」と話すが、インドでは高速鉄道よりも貧困層の生活向上が先だとする意識も根強い。
慢性的な電力不足状態にあるインドで、新幹線を走らせるための安定的な電力をどう供給するかも問題だ。高速鉄道建設に、原発の増設など社会インフラの整備も足並みをそろえさせる必要がある。
さらにセミナー出席者の一人は「テロの懸念」を指摘する。グジャラート州を含むインド各地では、イスラム教とヒンズー教などの宗教間の対立による虐殺事件やイスラム過激派によるテロが相次いでいる。
新幹線が高速運転から停止するのに4キロの走行が必要で、仮に線路を爆破されれば、大規模な事故になりかねない。高速鉄道実現には、治安の確保も避けて通れない問題になっている。(アーメダバード 岩田智雄)