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TPP交渉参加でアベノミクス正念場 国益確保、高いハードル
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安倍晋三首相が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明したことで、経済再生策「アベノミクス」は新たな試練に直面する。実際の交渉参加までには、米国との事前協議で、自動車や保険分野の市場開放を迫られる。交渉入り後も農産品の関税を「聖域」とする日本に対して参加国の風当たりは厳しく、国益確保に向けたハードルは高い。
「TPPを日本経済の成長につなげられるかどうか。これからが正念場だ」。経済産業省幹部は参加表明についてこう述べ、表情を引き締めた。
日本は今後、交渉入りの条件である参加国の承認取り付けを急ぐ。米国やオーストラリア、ニュージーランドが未承認で、なかでも米国は事前協議では米国内の自動車や保険業界からの圧力を背景に日本市場の閉鎖性を厳しく批判してきた。
このため自動車では米国の乗用車の関税撤廃に対し、一定の猶予を認める方向だ。米韓自由貿易協定(FTA)では米国が自動車関税を5~10年維持することを韓国が認めた。
日米はそれを超える猶予期間を検討しているが、米国市場での関税撤廃は日本の最大のメリットとみられるだけに、どれだけ期間を抑えられるかが課題になる。
保険でも、政府出資の残る日本郵政傘下のかんぽ生命保険が「暗黙の政府保証」を基に低コストで資金を調達しているとして、米国は「競争条件を対等にすべきだ」と主張。
かんぽ生命は、米国勢が得意とするがん保険に当面参入しないなどの配慮を見せるが、米国側は依然として「懸案事項が残る」としており、解決策は見えていない。
これらの課題を乗り越え、日本が交渉の席についたとしても、参加11カ国との難しい駆け引きが待っている。日本は鉱工業製品の関税撤廃で輸出増を目指すが、コメなど重要5分野を聖域として関税維持を狙う。ただ、酪農国のニュージーランドやオーストラリアは関税撤廃の急先鋒(せんぽう)で、日本の聖域がどこまで認められるかは不透明だ。
通商交渉は「各国が守りたい市場でも開放しあった上で、そこからどれだけメリットを上積みできるかの勝負だ」(政府関係者)。安倍首相が強調する「国益」の確保に向けた覚悟が問われることになる。
分野 内容 想定される影響
1 物品市場アクセス 鉱工業品や農産品の 企業の輸出が拡大する一
関税撤廃 方、農家に打撃
2 原産地規則 生産国を決める基準の統一 原産地証明書の発給が簡
素化されるが、原材料の
生産国が不明な輸入農産
品が流入する恐れも
3 貿易円滑化 税関の手続き簡素化 輸出入が簡単になる
4 衛生植物検疫 食の安全検査や害虫予防の 食の安全基準が緩和され
(SPS) ルールづくり る恐れ
5 貿易の技術的障害 工業規格などの共通化 日本企業が海外での規格
(TBT) 変更に左右される心配が
減る
6 貿易救済 輸入急増への対抗措置を規定 緊急輸入制限などを発動
する条件が厳しくなる可
能性も
7 政府調達 公共事業の入札を外資に開放 日本企業の海外入札が増
えるが、日本でも外資と
競合する可能性
8 知的財産 知財保護ルールの統一 アニメなどの海賊版の取
り締まり強化
9 競争政策 カルテルなどの防止を規定 複数国にまたがる不正の
取り締まり強化
10 越境サービス貿易 サービス業者の内外差別を緩和 会計士などの専門資格の
相互承認を後押し
11 ビジネスマンの一時的 海外出張者の入国審査を簡素化 入国審査などの迅速化
入国
12 金融サービス 国境を越えた金融業のルール 日本郵政グループの金融
づくり 業が制限される恐れ
13 電気通信サービス 通信インフラ運営者の義務を規定 各国の規制策定プロセス
が透明に
14 電子商取引 ネット商取引の制度整備 個人情報保護などの
ルール統一化も
15 投資 海外投資家の保護など 国内外の区別をなくす
一方、外資企業が国を
訴えるISDS条項で
日本政府への訴訟急増の
恐れも
16 環境 環境基準の安易な緩和を防止 規制の緩い海外と日本の
条件が共通化され、国内
企業の競争力が向上
17 労働 労働基準の安易な緩和を防止 規制の緩い海外と日本の
条件が共通化され、国内
企業の競争力が向上
18 制度的事項 TPPを運用する委員会の設置 企業の懸案事項を政府間
で議論し、運用が改善
される
19 紛争解決 協定の解釈による紛争の仲裁 仲裁の仕組み次第で有利
ルール にも不利にもなる
20 協力 新興国への技術支援や人材育成 税関や知財保護の人材
育成で日本企業の海外
事業を後押し
21 分野横断的事項 通商上の障害を幅広く議論 中小企業の海外展開を
後押し