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円安の「功罪」顕在化 経常収支黒字も景気判断悪化
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火力発電所のLNG設備。火力発電向け燃料輸入の増加で貿易収支の赤字基調は続いている=千葉県富津市 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」で急速に進んだ円安の“功罪”が顕在化し始めている。2月の経常収支は、円安で、海外子会社からの配当収入など所得収支の黒字額が増え4カ月ぶりに黒字転換。一方、円安に伴う輸入価格の上昇を受け、3月の景気ウオッチャー調査は2~3カ月後の景気実感を示す先行き判断指数が5カ月ぶりに悪化した。日銀の金融緩和策で一段の円安が進むなか、原材料や燃料の価格上昇によるコスト増を懸念する声も広がり始めてきた。
財務省が8日発表した2月の国際収支速報によると、海外とのモノやサービスの取引状況を示す経常収支は6374億円の黒字だった。円安で所得収支の黒字が前年同月比13.1%増の1兆4074億円に膨らみ、輸出入の差額を示す貿易収支の6770億円の赤字を補った。
市場の事前予測では経常収支の中央値を4575億円と予想していたが、これを上回った。所得収支が円安で前月より14%増えた効果が大きく、第一生命経済研究所の大塚崇広エコノミストは「これまで輸入価格の上昇に働いてきた円安の効果が経常収支に表れ始めた可能性がある」という。
ただ、輸出の低迷に加え、停止中の原子力発電を補うための火力発電向け燃料輸入の増加で貿易収支の赤字基調からは抜け出せていない。この影響で、2月の経常収支は前年同月比でみると47%減と、ほぼ半減している。円安効果を追い風に、輸出を増やし、貿易収支を改善させられるかが、経常収支を抜本的に上向かせるための鍵となる構図は変わっていない。
一方、円安に伴う輸入価格の上昇は企業の景況感にマイナスの影響も及ぼし始めた。内閣府が8日発表した3月の景気ウオッチャー調査は、街角の景気実感を示す現状判断指数が株高を背景に前月比4.1ポイント上昇の57.3と過去最高に並ぶ一方、先行き判断指数は0.2ポイント低下の57.5となった。先行きが5カ月ぶりに悪化したのは、輸入する原材料価格が上がっているためで、企業部門の景気実感は前月比で悪化に転じた。
企業からは「製造コストの増加要因を容易に価格転嫁できない」(近畿の繊維工業)、「燃料や材料の輸入価格が上がり、利益の出ない中小企業の工場は休業しているところもある」(近畿の輸送業)といった声が聞かれるなど、行き過ぎた円安に対する企業の警戒感も強まってきた。