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露LNG攻勢、日本にチャンス 協力模索、投資の目利き重要に

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露LNG攻勢、日本にチャンス 協力模索、投資の目利き重要に

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ロシアの主なLNG計画  今月末の安倍晋三首相のロシア訪問を控え、ロシアのエネルギー大手が日本に対し、液化天然ガス(LNG)の猛烈セールスをかけている。

 米シェールガス革命の余波で、ロシアの欧州向けガス販売が落ち込んでおり、代わりの受け皿として日本市場に目をつけたわけだ。ロシアはこれまでの資源囲い込みによる高飛車な姿勢を一転、日本に秋波を送る。

 エネルギー調達の選択肢が増える日本は「競争力のある価格を引き出す絶好のチャンス」と歓迎するが、同時に投資の目利きや価格交渉力が求められそうだ。

 丸紅など戦略的提携

 「あれだけの大物、何かビジネスができないか」。大手商社は、米エクソン・モービルを抜いて世界最大手の石油・ガス開発会社に浮上したロスネフチに熱視線を注ぐ。セチン社長はプーチン大統領の側近中の側近だけに、資源開発にとどまらず、同社と極東での産業協力を模索する商社もある。

 日本市場に根を張りたいセチン社長も2月の来日時に、政府関係者や大手商社首脳らと相次ぎ会談しオホーツク海石油鉱区やサハリン1のLNG計画への参加を求めた。

 この要請に早々に応じたのが丸紅だ。国分文也社長がさっそくモスクワに飛んでロスネフチと戦略的提携を結んだ。ロスネフチが米エクソン・モービルと検討するサハリン対岸のデカストリにLNG基地を建設する構想に参画する。同基地の規模は年産最大1500万トンで、総事業費は1兆5000億円にのぼる一大プロジェクトだ。

 一方、3月にはロシア2位の民間ガス会社ノバテクのミケルソン社長とノワク・エネルギー相が、茂木敏充経済産業相や三井物産、丸紅、東京電力と会談。日本側に対しノバテクと仏トタールが参画するヤマル半島のLNGへの参画を要請した。

 今月17日には、ロシア最大のガス会社のガスプロムのミレル社長が来日。茂木経産相に対し、計画するウラジオストクLNG基地の重要性を強調、「日本は重要な市場」とガス販売と開発への参画をアピールした。

 伊藤忠商事の豊島正徳執行役員は「ロシアは、東シベリアと極東だけで豪州に匹敵するガス埋蔵量があり、近距離の極東から安定調達する意味は大きい」と豪州、カタール、マレーシアに次ぐ4位のLNG輸入先であるロシアからの調達に積極姿勢を示す。

 米シェールに危機感

 ロシアのエネルギー大手3社がこぞって日本市場に売り込みをかける背景には、急速に変わったエネルギー事情がある。米シェールガス革命という大潮流によって、米国向けを失ったカタールがガスを欧州と日本に販売。このあおりでロシアは欧州向けガス販売が落ち込み、日本や中国をはじめアジア市場開拓が最重要課題になった。

 加えて、ロシア国内のエネルギー業界に異変が起きていることも大きい。今年2月、プーチン大統領率いる燃料・エネルギー大統領委員会は、ガスプロムによるLNG輸出の独占体制を段階的に規制緩和することを打ち出した。これを見越してロスネフチもノバテクもLNGプロジェクトを相次ぎ立ち上げ、外資呼び込みに懸命だ。

 両社のLNG輸出の動きに神経をとがらせているのが、独占輸出が崩れたガスプロムだ。今回のミレル社長の来日は、安倍首相の訪露を前に、「自身の存在感を国内外にアピールするため」(関係者)ともささやかれている。

 そのガスプロムが計画するウラジオLNGの行方も不透明だ。昨年4月に、経産省の音頭で伊藤忠商事、丸紅、石油資源開発(JAPEX)、国際石油開発帝石(INPEX)などが、LNGの共同事業化調査でガスプロムと基本合意。その後ガスプロムと経産省が覚書を交わしたが、ウラジオLNGはいまだガス田もはっきりせず関係者の口は重い。

 ガス田のコスト競争力、条件、買い手はつくのかなど、課題が山積し投資決定を図りかねているのが実情だ。

 日本のLNG輸入は震災後、安定調達が求められたが、今はいかに低価格で調達できるかへに焦点が移った。ロシアの資源国家管理に翻弄されてきた大手商社はロシアの“変節”を歓迎するが、電力・ガス業界は、安価な北米のシェールガスやアフリカ・モザンビークのLNGへの関心が高い。

 政府関係者はロシアとの取引について「商談を一刻も急ぎたいロシアに比べ、日本勢の立場はロシアからいかに適正価格を引き出せるかにある」と話す。日本は買い手として、投資の目利きとともに、有利な条件で調達する“したたかさ”も求められそうだ。(上原すみ子)

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