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中国「リコノミクス」は後ろ向き 経済のゆがみを正す
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安倍晋三政権が進める経済政策「アベノミクス」に対抗したのか、中国で最近、李克強首相が主導する経済政策を「リコノミクス」と呼び、関心を呼んでいる。
「影の銀行(シャドーバンキング)」問題など金融リスクが懸念される一方、実体経済の先行き不安が広がる中、「次の一手」を李首相がどう打つかに市場の関心が集中している。英金融大手バークレーズキャピタルが、「リコノミクスに何が期待できるか」とする経済リポートを公表。これを国営通信新華社通信が取り上げ、新語として中国で浸透しつつある。
中国語の表記でアベノミクスは「安倍経済学」。リコノミクスは「李克強経済学」で、中国版アベノミクスとの呼び声もある。ただ、景気浮揚を強く打ち出したアベノミクスとは対照的に、リコノミクスは、簿外で資金を高利調達して信頼度の低い借り手に貸し付ける「影の銀行」をはじめ、地方政府が抱える水面下の“巨額不良債権”処理など、経済のゆがみを正すことに重点を置く。中国経済の成長失速など、痛みを伴う可能性も大きく、その面から、リコノミクスは「後ろ向き」にならざるを得ない。
3月の全国人民代表大会で副首相から昇格した李氏は、統計数字稼ぎと批判された地方の無駄なインフラ建設、需給バランスを無視した生産能力過剰の製造業、不動産投機などへの金融機関の融資にメスを入れた。だが、江沢民元国家主席を頂点とした「上海閥」や、習近平国家主席に代表される党幹部子弟らの「太子党」、それに連なる地方の共産党組織や政府幹部らが持つ既得権益と対抗せざるを得ず、リコノミクスは権力闘争の嵐にも巻き込まれる。
他方で、リコノミクスの動向を示す「克強指数」なる指標が地元紙に登場した。輸出入や消費、投資額などの代表的な統計を使わず、「電力消費」「鉄道貨物取扱量」「銀行融資」の3統計を並べただけで指数化はされていない。3月から6月までの数値は電力消費で工業用が4月に特殊要因で突出した以外、傾向として右肩上がりが見て取れる。実はこの克強指数は、内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電に記載されていたという李氏発言が由来だ。
遼寧省共産党書記時代の2007年、李氏は中国の国内総生産(GDP)は「人為的に操作されており信頼できない」と当時のラント駐中米国大使と会食した際に話したという。
さらに遼寧省の経済統計では「電力消費」「鉄道貨物取扱量」「銀行融資」の3つだけに注目すれば十分で、GDPは「参考値にすぎない」と笑い飛ばした。余談だが日本のチャイナウオッチャーの間で、李克強氏を親しみをこめて「リカちゃん」と呼ぶことがある。
イントネーションこそ違うが、李克強をカタカナで書けば「リカチャン」になるという理由だ。本家のリカちゃんほどかわいらしくはない風貌だが、人々の注目を集める点で共通項はあろう。(産経新聞上海支局長 河崎真澄)