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TPPは技術売り込むチャンス? 好調なカムリ、日本酒…米韓FTAにヒント

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TPPは技術売り込むチャンス? 好調なカムリ、日本酒…米韓FTAにヒント

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韓国ソウル市内にある韓国資本の日本食レストラン。高い人気を誇る日本のビールの看板を掲げている(ジェトロソウル事務所提供)  関税が原則撤廃される環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は果たして“追い風”なのか、それとも“向かい風”なのか。答えは簡単に出せないが、そのヒントが韓国と米国の間ですでに発効している米韓FTA(自由貿易協定)の中に隠されていた。大事なのは、高くて確かな技術を持つことと自由貿易圏という「風」を見極める力。日本が今後どう闘うかを考えたい。(大谷卓)

 前年比55%も増えた米国産日本酒

 昨年、韓国の自動車市場で異変が起きた。トヨタ自動車の米国産セダン「カムリ」が「韓国カー・オブ・ザ・イヤー」を輸入車メーカーとして初めて獲得したのだ。現代自動車などが圧倒的なシェアを誇る中での快挙だった。

 理由はある。昨年1月に発効した米韓FTAを見越したトヨタの「戦略」だ。これによって米国からの輸入関税は8%から4%程度に引き下げられ、5年目にはゼロになる。日本からの乗用車輸入関税は8%のままだから、米国産を輸出するほうが有利だ。販売実績は年間1万6千台だが、技術力に勝るトヨタ車が、韓国の消費者にも受け入れられたのだが、米韓FTAを“追い風”にしたというわけだ。

 規模は小さいが、実は同じように米国から韓国への輸出が伸びた商品がある。日本酒だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所などのデータによると、韓国の輸入は2011年以降やや鈍化したものの、昨年は3206トンで過去最高を記録した。中でも、日本酒メーカーが米国で生産し、韓国へ輸出する「米国産」は金額ベースで前年比約55%増の127万9千ドル(約1億2534万円)、数量ベースでも約19%増の499トンとなった。

 日本酒の場合も、米韓FTAで15%の関税が撤廃される。もともと米国産は日本産の半額に近いとされ、そのうえ関税もゼロになるため、より低価格になる。

 輸入増は、そこに韓国の輸入業者が目をつけた結果だが、日本食レストラン、居酒屋など外食産業の韓国への出店ラッシュが続いていることも追い風となった。

 日本酒のケースもまた、米韓FTAという追い風にうまく乗った例なのだ。

 韓国で人気のビール、日本酒…

 韓国ではいま、日本食がブームだという。居酒屋やレストランの日本チェーンの進出だけでなく、韓国資本の日本風店舗も増えている。その結果、日本製のアルコール類が浸透している。

 例えば、日本のビール。韓国への輸出をみると、11年の金額ベースは1825万ドル(約17億8850万円)だったが、12年には2639万ドル(25億8622万円)に急増。韓国での人気は非常に高い。今年3月には島根県・竹島をめぐり、日本製品の不買運動を始めようとした団体があったものの、インターネットなどで「日本のビールは韓国のものよりうまい」と反発が起き、不発に終わったほどだ。

 日本酒も現在、韓国への輸出は04年の約9倍。日本文化に抵抗が少ない若者を中心に、アルコール度数がさほど高くなく、清涼感がある日本酒の人気が高まっている。

 ジェトロソウル事務所の総務チーム長、大澤淳さんは「米国産日本酒の韓国輸入という動きは、まだ萌芽のようなものだけど、個人的には今後増加すると思っている」とみる。

 同事務所が3月に開いた日本酒・焼酎輸出商談会では、日本側からは、韓国向けの新商品を開発したメーカーなど計18社が参加。韓国側は居酒屋やホテル、レストランの関係者や輸入業者ら170人以上が訪れ、新たな商談ができたケースもあったという。

 静かな浸透…「いろんな輸出が可能になった」

 各社はどう考えているのだろうか。食文化の「壁」があるとはいえ、低価格の米国産がFTAという追い風に乗って、韓国で日本酒が浸透すれば商機にはつながる。

 日本酒メーカーの宝酒造(本社・京都市)は6月13~15日に韓国であった酒類の展示会に参加した。現地でのイベントに積極的に参加し、日本酒の良さをアピールする狙いがあった。

 同社の13年決算資料によると、子会社の米国宝酒造は清酒を中心に売り上げを伸ばし、12年の売上高は2684万4千ドル。コストダウンをはかり、営業利益は前年比で倍以上に増えた。13年も増益を見込む。

 米国から韓国への輸出は米国産の1%未満と少ないが、同社は「韓国で清酒が浸透し、価格が安いモノが売れる市場が広がった」ともみている。

 同じく月桂冠(本社・京都市)は、04年まで行われた韓国の日本文化の開放で、日本酒の輸出が可能になったことを受けていち早く進出。米国産の日本酒の主な販売先は米国やカナダだが、「米国での出荷が伸びており、設備を増強した結果、生産量が確保でき、韓国も含め、いろんな輸出の仕方が可能になった」と話している。

 確かな品質と味さえあれば、海外でも高い評価を受けられる。「日本ならではの高品質なものは自由貿易になっても大丈夫だと確信している」と宝酒造の担当者はみる。

 高い技術を売り込め

 もちろん課題は少なくない。

 宝酒造はTPPについて推進・反対いずれの立場でもなく、「今後は慎重に見極めていく」とした上で、「ただ単に価格が安いだけで、競争に勝つのは厳しい。(日本酒は)現地の人の嗜好を多様化していくという時間のかかる市場」と指摘する。

 今後に関しては、TPPと関係なく、日本食の広がりを進め、日本酒に触れる機会をつくることで現地での販路拡大を目指す方針だ。

 ただ、風下にいれば逆風になる風も、風上に立てば追い風になる。自動車や日本酒の例をみれば、TPPは日本の高い技術力を世界に売り込むチャンスでもあるのだ。

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