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日本郵政、直営2万局の威力 国内最大の“総合サービス企業”に変貌

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日本郵政、直営2万局の威力 国内最大の“総合サービス企業”に変貌

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日本郵政とコンビニ、生保の比較  国内最大の“コンビニエンスネットワーク”が動き始めた。政治に揺さぶられ続けた日本郵政が、株式上場に向け、全国2万4000を超える郵便局ネットワークの活用を本格化。米医療保険最大手アメリカンファミリー生命保険(アフラック)のがん保険を5年かけて全直営2万局で販売するほか、規制の足かせのない「新規業務」を相次ぎ打ち出す方針だ。セブンーイレブン・ジャパンなど大手コンビニ店舗網をも凌駕(りょうが)する郵便局ネットワークが“総合サービス企業”に変貌しはじめた。

 地方開拓に強み

 日本郵政とアフラックが26日に発表した業務提携拡大は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の事前交渉で「非関税障壁」だと批判していた米政府に配慮した官民の共同歩調と取り沙汰された。

 しかし、関係者の話を総合すると事情は少し違うようだ。

 日本郵政が全国約300の郵便局窓口でアフラックのがん保険を発売したのは2008年10月。当初、「郵便局にがん保険が売れるのか」(生保業界)と冷ややかにみられていたが、わずか1年足らずで取扱郵便局は1000局に拡大。

 同時に発売した住友生命保険の終身医療保険と合わせ、いわゆる医療関連の「第3分野保険」の契約件数は年間約2万4000件に上り、郵便局の販売力の高さをみせつけた。

 今回の提携拡大は、がん保険などの「販売ノウハウを蓄積してきた」(郵便事業会社幹部)日本郵政が、膠着(こうちゃく)状態のかんぽ生命保険の新規業務参入に見切りをつけ、アフラックと1年かけて交渉を積み上げてきた成果だった。

 利益の8割を日本で稼ぎ、国内がん保険市場で7割強のシェアを持つアフラックにとっても、日本郵政グループとの提携拡大はまさに渡りに船。日本郵政が傘下のかんぽ生命保険で取り組んできた日本生命保険とのがん保険開発を断念。郵便事業会社とかんぽ生命の両社がアフラックの代理店になることで、国内シェアのさらなる伸長が期待できる。

 特に威力を発揮しそうなのが地方だ。JA共済総合研究所調査研究部は「全国の郵便局ネットワークはライフラインとして重要性を増す。そこで生保商品の販売態勢を整えていけば、農村部などでその影響は軽視できなくなる」(湊一郎研究員)とみる。

 「郵便局がコンビニ」

 郵便局で扱っている保険は、第3分野の2商品のほか変額年金保険、法人向け生命保険など数多く、提携保険会社は10社におよぶ。保険以外にも行政サービス、印刷サービス、ローソンとの提携による局舎内コンビニ(11カ所)、地元向け広告宣伝取り次ぎ、ネットショッピングなど扱う商品やサービスは年々増えている。

 郵便局ネットワークとコンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンの営業拠点を比較すると、総数は約2万4000局と約1万5500店。東京都と茨城、栃木など関東6県ではセブン側の店舗数が上回っているが、それ以外の地方では店舗0地域も含めて圧倒的に郵便局数の多さが目立つ。地方では「郵便局がコンビニ」(郵便事業会社)の一端を担う潜在ニーズがある。

 日本郵政が独自商品開発によるかんぽ生命の新規業務参入という正面突破を諦めて、アフラックの商品を全面的に取り扱うことにしたのは、規制に縛られることなく、比較的自由に新規業務が行える郵便事業会社に、生保業務を事実上「一部移管」したともいえる。

 民営化の成否握る「新規業務」

 それは、監督官庁の認可という規制の足かせで、自由に新規業務が行えないゆうちょ銀行とかんぽ生命の金融2社とは異なる郵便事業会社のフットワークの軽さを活かし、郵便局ネットワークを使った「新規業務」による実利を取る戦略への転換を意味する。

 「郵便局ネットワークと金融2社の業務をいかに有機的に結合できるかが、株式上場のキーポイントになる」。日本郵政の株式上場を最大の使命と考える西室泰三社長の言葉は、郵便局ネットワークの徹底活用こそが成長戦略のカギであることを象徴している。

 金融庁の認可や民間金融機関の反対といったハードルを乗り越えて、学資保険や住宅ローン、中小企業向け融資などの新規業務に乗り出すには、金融2社の上場も不可避だ。

 ユニバーサル(全国均一)サービスの維持という「守り」から、国内最大の営業拠点網を武器に「攻め」に転じる郵便局ネットワークの活用が「郵政民営化」の成否を握ることになりそうだ。(芳賀由明)

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