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消費増税迷わせた“トラウマ” 市場関係者「1997年とは状況違う」
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消費税増税決定から一夜明け、官邸に入った安倍晋三首相=2日午前、首相官邸 1日に消費税率引き上げを決めた安倍晋三首相。1997年に消費税を3%から5%に引き上げて以降、日本経済が低迷したという“トラウマ”が、判断を最後の最後まで迷わせた大きな要因だった。しかし、市場関係者の間では当時と今とでは状況が違うという見方が大勢を占める。足元のビジネスの現場でも、すでに前回とは違った様相をみせているようだ。
「結果的に消費税率引き上げを判断したことで、パフォーマンス狙いだったのではといった批判もでるだろう。だが、総理は本当に悩んでいた」
1997年と同じようなことが起きれば、首相の経済政策の最大の目標である「デフレ脱却」への道は完全に閉ざされる。政権の命運をかけた判断への苦悩は深かったと同関係者は語っている。
実際、97年4月の消費税率引き上げ前の同年1~3月期の実質成長率が2.9%(前期比・年率換算)だったのに対し、4~6月期は3.9%減と急減。駆け込み需要後の反動減が一気に景気を冷やした。以降、長期間マイナス成長が続いた。引き上げ当時の首相だった橋本龍太郎氏は、その後、当時の判断を後悔し、謝罪を繰り返している。
以降、「97年のトラウマ」は、その時々の政権に等しくついて回った。少しでも「増税」をちらつかせた政権は、批判の集中砲火を浴び、選挙でも苦戦を強いられた。
ただ、消費税増税が日本経済の低迷を招いた最大の原因だったか、その後の景気動向をつぶさに見ると、必ずしもそうではなかったというのが、今の市場関係者の見方だ。
明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストは、「(97年)11月にはいってからの山一証券、北海道拓殖銀行の破綻といった金融危機と、アジア通貨危機が景気低迷の主犯」と指摘する。
増税直後の反動減後の97年7~9月の成長率がいったん1.6%のプラス成長に転じたのに対し、翌98年1~3月期に7.4%減と大きく落ち込んだのは、消費増税では説明つかないからだ。
ある日銀首脳はこの97年前後と現状を比較し、「金融システムの安定度が全く違う。増税しても景気の腰折れはない」と断言する。その上、「実際に追加緩和の可能性は低い」(日銀首脳)とみる。
前回はバブル経済崩壊の影響もあって、人員、設備、負債の3つの過剰が問題視されていた。全国の銀行の不良債権についても97年3月末段階で21.8兆円に及んだ。
今回は雇用などの状況もアベノミクスで改善。そして何よりも、不良債権は2013年3月末段階で前回増税時に比べほぼ半減した。「一般論だが、大手行の破綻懸念は極めて後退している」(金融庁幹部)。
実際のビジネスの現場でも、当時とは違うという見方が広がっている。
「前のときは駆け出しだったから、特にそう感じたのかもしれないが、今回はそんな感じはない。モデルルームの来場者もそんなに焦ってはいない。確かに客は増えているが、駆け込み需要というより、物価上昇に備えて早めに動く富裕層が中心だ」。
千葉県東部を地盤にする不動産会社の役員は、前回の引き上げ直前に起きたような駆け込み需要が今回の引き上げで起きていないことを実感している。前回の消費税引き上げ直前は、準大手不動産で横浜市の新築マンション販売を担当する若手だった。
セールストークは、「この物件なら、消費税引き上げまでに引き渡しができます。みなさん2%の値上がりを前に、購入に前向きですよ」だった。入社数年で、販売ノウハウは乏しく、物件の説明もうまくできなかったが、それでも、ハイペースで契約が取れたという。
それが今回は客足はあるが、「住宅ローン減税で、引き上げ後も購入者負担が変わらないことを知っていて、なかなか契約にはつながらない」。
「過去を教訓に、万全の対策を早め早めに打つ」
自民党税制調査会の野田毅会長が言い切るように、すでに今春から、消費税の価格転嫁対策や住宅販売の山谷を小さくするための住宅ローン減税措置を進めたことも功を奏した。
その上、5兆円規模の経済対策の中で、税率引き上げ後に、低所得者の住宅購入には最大30万円の補助金を出す仕組みを盛り込むなど、駆け込みの過熱を防ぎ、引き上げ後の反動減を防ぐ。
不動産会社役員は、駆け込み需要不発に、「肩すかしを食らった感じ。でも、駆け込みと反動減はほとんどないのではないか」と、消費税増税後の来春以降にもビジネスチャンスに期待を寄せている。