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海外情勢
世界的なエビ争奪戦、中国で需要激増 日本の国内自給率10%
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芝エビ(下)の安い代用品とされたバナメイエビ(上)だが、価格は上昇傾向にある(佐賀県水産課提供写真と農水省ホームページ掲載資料のコラージュ) 「中国料理の世界では小さなエビを芝エビといいます」。阪急阪神ホテルズの食材偽装問題で、担当者は「バナメイエビ」を使っていたのに「芝エビ」と表記した理由をこう説明した。高級料理と見せかけて安い食材を使っていた、と強い批判を浴びた今回の問題で象徴的な場面だ。だが、そのバナメイエビ、実は高くなってきている。
農林水産省によると、日本のエビ消費量は年間約26万トンで、国内自給率は約10%に過ぎず、主にタイなど東南アジアで養殖されたものを輸入している。その中でもバナメイエビは、安く味も良いとあって、スーパーなどではエビの主役ともいえる存在だ。
ただ、産地で「早期死亡症候群(EMS)」と呼ばれる病害が猛威をふるい、バナメイエビは品薄になってしまった。輸入業者によると、国内卸業者への出荷価格は1・8キログラムあたり2400~2500円と前年の2倍以上に高騰。ほかの品種にも波及し、ブラックタイガーは2倍近くに値上がりしているという。
一方で今夏以降、米国や中国がクリスマスや春節(旧正月)需要向けのエビを確保するため各地で買い付けを活発化。日本の百貨店でも来年のおせち料理のため「ほとんどが今秋までに調達済み」(大手百貨店)と、買い込んだ。
こうした動きが重なりバナメイエビの需給逼迫を招いており、価格は「しばらく高止まりする」(大手商社)見通しだ。
エビの値上がりは円安、素材高に苦しむ外食産業に追い打ちをかけている。ロイヤルホールディングスは天丼チェーン「天丼てんや」で、エビ天2本が入った「上天丼」や「海老天そば(うどん)」の販売を原則終了したほどだ。
病害発生による供給減は想定外としても、そもそもエビの価格を押し上げる圧力は高まっていた。
エビは文明が爛熟期に入った国や地域で好まれるともされ今後、途上国で需要が高まるのは必至。実際、中国ではこの10年間で需要が2倍超になったといい、世界的なエビ争奪戦の時代に入るかもしれない。
最前線にいるのが総合商社だ。例えば三井物産は、ベトナムのエビ養殖・加工最大手、ミンフー・シーフード傘下の加工事業会社に、子会社を通じて資本参加。今年は昨年に比べ5割増の1万5000トンのエビ加工品を生産する計画で、5年後に最大4万トンに増産する考えだ。
このほか、三菱商事はタイで、双日はインドネシアでそれぞれエビ養殖事業に参画し、丸紅もタイのエビ加工業者と提携した。
一方、日本国内では、独立行政法人国際農林水産業研究センター、民間でエビ養殖技術の研究開発を手掛けるIMT(東京)などが「屋内型エビ生産システム」を開発した。外部から閉鎖された設備で淡水を使ってバナメイエビを育てる。病害の心配がないといい、新潟県に設置した養殖場では出荷もしている。
こうした取り組みが見込み通りの成果を上げていけば、いずれエビの価格も落ち着いてくるはずだ。
果たして、バナメイエビは家庭の食卓の味であり続けるのか、それとも日本の高級レストランや料亭のメニューに「バナメイエビのチリソース煮」「バナメイエビの天ぷら」と堂々と書かれる日が来るのか?