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証券業界“攻め”の出店戦略 個人投資家取り込み、銀証連携も強化
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証券各社の出店計画 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」で株式市場が長期にわたる低迷から抜け出したことを受け、証券各社が新規出店や拠点網再編など店舗戦略を積極化している。富裕層の多い地域に出店したり、グループ銀行と一体的な金融サービスを提供する銀証連携を強化したりするなど、さまざまな手法で個人投資家の取り込みを狙う。
SMBC日興証券は来月、東京・銀座と大阪・梅田という東西の一等商業地に支店を新設する。証券業界は市況低迷下で出店を抑制してきたが、同社の支店開設は約6年ぶり。銀座は2003年以来11年ぶりの再進出だ。
日興は、商業の中心地域での出店を「『リテール(個人向け営業)基盤を拡充する』という企業意思の象徴」と位置付けている。賃貸料など多額の固定費がかかるものの、多くの富裕層が足を運ぶため、「コストを上回る成果が出せる」(同社)と自信を示す。
銀座支店を開設するのは高級ブランド店などが軒を連ねる中心部。社員約15人を配置し、個人投資家の資産運用やコンサルティング業務などに注力する。
日興は、16年3月までに営業店を25店増の134店とし、リテールの預かり資産を13年3月末比で7兆円増の30兆円にする目標を掲げている。関西に強固な基盤を持つ親会社、三井住友銀行との連携強化に向け、神戸・三宮など大阪以外の関西の繁華街にも拠点を開設する。
大和証券も現在の本支店118、低コストの営業所15の体制を2~3年で約150拠点に増強する計画だ。営業所は昨年6月以降、全国で11開設したが、今後も4月までに3カ所増設するなど大都市圏を中心に充実する。
最大手の野村証券は、4月に新宿駅に「顧客の多様なニーズに応じたコンサルティング機能の強化」という新しいコンセプトの店舗を開設。個人投資家向け資産運用相談に重点を置いてサービスを提供する。
一方、合併などで過剰な支店や営業所を抱えていた会社は、重複店舗の統廃合を進めるのに合わせて、グループ企業の銀行顧客の囲い込みなど、リテール営業の強化を目的とした店舗戦略を展開している。
みずほ証券は、旧みずほ証券とみずほインベスターズ証券との合併直後の昨年1月に140店舗あった支店、営業所を111店に整理。統合に際し、みずほ銀行の支店近くに移転し「共同店舗」として銀行の顧客に対する営業活動の強化などを図っている。3月末までにはさらに7店舗を統合する方針だ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券も、05年当時に155店あった店舗網を今年2月までに62店体制とするが、これに合わせて「『攻めの統合』を通じた営業体制の強化も同時に行っている」(同社)という。顧客の資産規模ごとに営業社員を配置するなどの見直しを実施した。
証券取引でインターネットを介した売買が増え、「もはや店舗の意味を見いだしにくくなった」(市場関係者)との指摘もあるなか、大手証券はネット時代の店舗戦略を模索してきた。
一方、これまで進まなかった「貯蓄から投資へ」の流れを確実にするには、資産形成全体の中で株や投資信託などリスク資産をどう位置づけるか、個人顧客に丁寧に説明する必要があり、店舗での対面販売の重要性は以前より増しているともいえる。個人による投資が活発化するなか、各社の店舗戦略の巧拙が、将来の収益を大きく左右しそうだ。(佐藤裕介)