SankeiBiz for mobile

【ビジネスアイコラム】「影の銀行」救済のジレンマ

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

【ビジネスアイコラム】「影の銀行」救済のジレンマ

更新

 中国の信託会社が組成し、最大手の中国工商銀行が富裕層向けに販売した総額30億元(約510億円)の高利回り金融商品にデフォルト(債務不履行)懸念が生じたものの、1月末の満期ギリギリになって“新たな投資家”が突然現れ、最終的にデフォルト(債務不履行)が回避される“事件”があった。

 丸紅経済研究所の鈴木貴元シニア・エコノミストは、この信託会社がデフォルト回避を発表した瞬間、ほっと胸をなで下ろしたという。もし1月末に問題の金融商品がデフォルトしていたら、すでに通貨下落など不安定な状態にあったアルゼンチンやトルコ、南アフリカなどの新興国経済の市場マインドが一気に冷え、「新興国にデフォルト連鎖が拡大、中国発の世界同時株安や金融危機が起きても不思議ではなかった」からだ。

 中国で金融当局の監督が及ばない「影の銀行(シャドーバンキング)」と呼ばれるハイリスク・ハイリターン型の金融商品の中で、元本割れなど債務不履行に陥ったケースはこれまでのところ表面化していない。

 新興国経済は、米国が約5年続けた量的緩和策の縮小や中国の景気減速という2つの要因で弱含んでいる。この1月はオバマ政権が量的緩和策の「出口戦略」を開始したタイミングと重なって危機感が増幅されたものの、中国で初のデフォルト懸念が回避され、米雇用統計も市場予想より良かったことで一時的に景気減速懸念が遠のき、金融危機にも陥らずに済んだ。

 だが、ここで安心するのはまだ早い。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ、アジア版)は、デフォルト回避の手法を厳しく批判している。

 デフォルト回避の際に30億元の元本を保証した“新たな投資家”が誰かは明らかになっていないが、当局の意向を受けて国有大手銀などが救済したとの見方を中国紙が伝えた。中国当局が市場原理を無視して救済策を取ったとみられ、WSJは投資家が損失リスクを無視できるとの「巨大なモラルハザード(倫理の欠如)」を作り出したと批判した。

 そもそも金融商品へのリスク意識が低い中国の投資家に、「高利回りの理財商品も問題が起きれば、最後は当局が損失補填(ほてん)して救済する」との誤った認識が改めて蔓延(まんえん)した。

 「影の銀行」の主体は銀行が簿外で扱う「理財商品」で、このうち2014年に償還を迎える分は4兆元(約67兆円)前後とみられる。その約60%は国債など安全な運用を行っているもようだが、約40%はリスクを伴っている。鈴木氏の推計ではそのリスク分の3分の1、5000億元弱が危険という。30億元とは桁違いの巨額なリスクが年内に顕在化する恐れもある。

 「影の銀行」は、地方政府系の投資会社など借り手の資金需要と、富裕層を中心とする高利回りの資産運用ニーズが車の両輪となって拡大したが、「最後は当局が」とのモラルハザードで、“錬金術”を信じ続ける中国の借り手や投資家はアクセルをさらに踏み込みそうだ。

 中国は経常黒字国で、「影の銀行」の借り手も投資家もほとんどが国内である以上、理論的には中国の国内問題で国際市場への影響は限定的との見方もある。ただ、世界的な市場マインドの冷え込みは抑えられない。新興国の通貨売りと安全通貨としての日本円の買いで、再び猛烈な円高を招き、日本株下落や世界同時株安の負の連鎖が起きると市場関係者は恐れている。

 中国当局には次なるデフォルト懸念を回避するための慎重なハンドルさばきが求められているが、安易な救済策はモラルハザードによる「影の銀行」を肥大させるジレンマも生む。世界第2の経済大国に政策運営の実力がいま、問われている。(産経新聞上海支局長 河崎真澄)

ランキング