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名古屋活況も“トヨタ頼み”に危機感…「特殊バブル」崩壊懸念

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名古屋活況も“トヨタ頼み”に危機感…「特殊バブル」崩壊懸念

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高層ビル建設などの再開発が進むJR名古屋駅前=名古屋市中村区  トヨタ自動車グループが過去最高益を更新し、好況に沸く名古屋。JR名古屋駅前では高層ビル建設が3件同時進行するなど、活況を象徴する光景を目の当たりにするが、地元不動産業界には危機感が募っている。すべてのビルが完成すれば延べ床面積は計約58万7千平方メートルにも上り、名古屋市内のオフィス市場需給が大変動する可能性が高いのだ。“トヨタ頼み”の名古屋経済が景気動向に大きく左右されることもあり、来秋に予定される消費税率10%への引き上げ後の名古屋経済全体への影響を懸念する声もある。

 名古屋駅前がNY・マンハッタンに!?

 JR名古屋駅(名古屋市中村区)に隣接する一等地。2月末、一帯では夜間もクレーンが動く音が鳴り響き、ビル建設工事が着々と進められていた。

 同駅前では平成27~28年に巨大ビルの完成が相次ぐ。三菱地所の「大名古屋ビルヂング」(延べ床面積14万7千平方メートル)▽日本郵便の「JPタワー名古屋」(同18万平方メートル)▽JR東海の「JRゲートタワー」(同26万平方メートル)-の3棟(早い順)。いずれも地上40階前後の複合ビルで、大名古屋ビルには三越伊勢丹の出店が決まっている。

 3つのビル完成で、生まれるスペースはなんと名古屋ドーム12個分。名古屋市は先月、平成40年のリニア中央新幹線開通に向け、「誰にでも使いやすい国際レベルのターミナル駅」を目指すとし、これら民間高層ビルを歩道で結ぶことなどを盛り込んだ「名古屋駅周辺まちづくり構想」の素案をまとめた。入り組んだ地下も含め歩行空間を整備することで、都市再生を目指すとしている。

 名古屋駅前にはすでに、「あべのハルカス」(大阪市阿倍野区)完成までは世界一高い駅ビルだった「JRセントラルタワーズ」(高さ245メートル)や、「ミッドランドスクエア」(同247メートル)が立ち並ぶ。3つの巨大ビルはいずれも200メートル前後で、「名古屋駅前がニューヨーク・マンハッタンになる」ともささやかれている。

 6年ぶりの賃貸オフィス大量供給という“衝撃”

 だが、不動産市場に詳しいエコノミストは「名古屋には今、非常に危機感が漂っている」と指摘する。

 ニッセイ基礎研究所のリポートによると、過去4年間、名古屋市内では建て替えや再開発により賃貸可能面積が減少。これが名駅地区だけでなく伏見、丸の内の空室率向上につながった。

 実は、巨大ビル3棟の完成は6年ぶりの賃貸オフィス大量供給になる。だが、これはオフィスの「名駅シフト」をさらに加速させることになり、名古屋市内全体のテナント移転と賃料引き下げ競争激化につながる可能性が高まっているのだ。

 加えて、生産年齢人口が減っているという課題もある。労働人口の減少は全国共通の現象だが、名古屋市の場合、転入人口は他の大都市と比べ、景気動向に大きく左右される。これは、名古屋が自動車産業“一本足”経済であるという特殊事情のためだ。

 ニッセイ基礎研によると、名古屋市の平成21~24年の転入超過数は札幌や大阪、福岡各市を下回った。一方で、世界経済が回復して自動車産業が沸き立った25年は、リーマン・ショックの20年以来、5年ぶりの高水準を記録。自動車産業を中核とした景気動向と転入人口の際立った連動ぶりを浮き彫りにした。

 深刻な人材不足…まさか、ビルが建てられない!?

 東名阪に拠点を構える大阪市のオフィス仲介業者は、「名古屋には強いベンチャー企業が圧倒的に少ない」と指摘する。実際、三幸エステートによる業種別のオフィス需要調査でも、成長産業であるIT・情報通信系の比率は他都市より小さい。“自動車一本足”の経済構造は、こんなところにも影響を及ぼしているのだ。

 ビル建設計画をさえ揺るがしかねない課題もある。東日本大震災の復興・復旧工事や、2020年東京五輪のインフラ整備で需給が逼迫(ひっぱく)する建設作業員の人手不足だ。

 愛知労働局によると、愛知県の26年2月の「建設・採掘」の有効求人倍率は5.19倍となり、前月から0.11ポイント上昇した。人手不足はすでに深刻だ。県内の不動産業界関係者によると「歴史的に、中部地方は建設の賃金が相対的に低く、東京や大阪に人を取られやすい」。万が一、人材確保が十分に進まなければ、ビル建設の計画進捗(しんちょく)にも響きかねない。

 27年10月には消費税10%への引き上げが予定されており、自動車需要は反動減が予想されている。JRゲートタワーのオフィス入居が始まるのは、28年11月。このときに、現在の景気やトヨタグループの好業績が持続しているのか、そしてオフィス需給はどうなるか…。しばらく目が離せない状況が続きそうだ。

(南昇平)

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