米国の国力低下に伴い、世の中は乱世の始まりという様相を呈し、昨今のアジア外交情勢を俯瞰(ふかん)すると、中国の春秋戦国時代の合従連衡を彷彿(ほうふつ)させる。
一方では、中国対日本、中国対東南アジア諸国、日本対韓国、日本対ロシアなどの領土をめぐる紛争、中国と北朝鮮との反目、中国・韓国対日本の歴史認識のいがみ合い、中国と台湾との長期対立、北朝鮮による全方向の脅威などが緊張を助長する。
もう一方では、中国と韓国との急接近、日本と北朝鮮との和解の兆し、日本とロシアとの微妙な接近、そのロシアと中国との新たな親密さ、ベトナムとアメリカとの安全保障上の握手、東南アジアをめぐる中国と日本との勢力争い、そして中国の中央アジアへの勢力拡大など、今までなかった動きも見られる。
◆最も貪欲な大国
世界最大の共産主義国家たる中国は「共産」とは名ばかりで、もっぱら「一党独裁維持」という「私利私欲」のためにのみ共産主義を標榜(ひょうぼう)しているだけで、その実は世界最大の、しかも最も貪欲(どんよく)な、資本主義大国である。たとえ、共産党一党独裁ではなくなり、多少は民主的になっても、13億人を養わなければならない事情に変わりはなく、今までと同様になりふり構わず経済成長や資源獲得に必死になるのではないか。
こうしたなか、中国の脅威に備えたい日本の安倍晋三首相が、日米同盟強化を訴えつつ、進め方に問題ありとはいえ、集団的自衛権行使容認を決めたのはうなずける。そして、フィリピンとベトナムとの防衛協力を図り、オーストラリア、インドや西欧諸国との安保上の友好関係を築こうとするのもこの文脈では無理もなかろう。
その一方、中国と付き合うのに、歴史観や軍事力だけの対抗意識一辺倒では果たして日本の国益にかなうかと問わねばなるまい。力とプライドの不毛な対決よりも、この「引っ越すことのできない隣人」がいずれ付き合いやすい「普通の隣人」になっていくよう手助けをする方が、日本の国益を考えた場合、よほど賢明ではないか。
◆民主化へ後押しを
中国の内部では、民主化、自由化、近代化への欲求が相当強く渦巻いており、インターネットと海外旅行の普及で一般国民への世界常識の浸透もかなり進んでいる。言論弾圧など政権の締め付けで一進一退があるとはいえ、自由民主化への圧力はもはや止めることができない。
それなら、日本にとっても好ましいこの流れを後押ししてやればよい。それには日本が何をすべきか。参考になりうるのは欧米諸国の取り組みである。
一例をあげれば、フランスは中国の裁判官を5年間で100人招待し、研修事業を実施してきている。中国の近代化の大きな妨げの一つである法治体制の遅れに着目し、その担い手たちに先進国の例を学ばせて自国の司法改革、ひいては政治改革に少しでも役立たせようというのが狙いである。
同じ狙いで、欧州連合(EU)諸国は中国国内の弁護士、非政府組織(NGO)、新聞記者などにも協力支援の手を差し伸べ、言論の自由、社会正義、女性の権利、身体障害者の権利など、中国が立ち遅れているさまざまな社会課題に挑戦し、苦闘する各界の人々をサポートしている。さらに環境問題では、北京の米国とフランスの大使館は独自の大気測量を行い、数値を発表することで、内政干渉のそしりを受けることなく、中国国民の環境問題意識を高めた。腰の重かった地元当局も大気汚染問題に対処せざるを得ない状況となった。
このような欧米各国の取り組みは着実に功を奏している。司法改革一つ取ってみても、中国では近年、死刑判決の数が減り、死刑適用罪名の大幅引き下げ、裁判の適正化、容疑者の権利保護などの改善が見られた。言論の自由に関しては、まだまだ締め付けが厳しいが、欧米諸国による新聞記者招待事業を通じて、報道人の意識改革が進み、40年前の毛沢東時代に比べたら隔世の感がするほど開放的になったのは事実である。
秋に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を機に日中首脳会談が実現すれば、今後の日中関係のリセットが課題に上るだろう。その新しい関係を構築する際、今までの軍事的、感情的対峙(たいじ)は一朝一夕ではなくならないが、せめてそれらと平行した形で上記のEU諸国の地道な取り組みも検討されれば、長期的に日中関係の改善、ひいてはアジア全体の緊張緩和にも貢献するであろう。