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海外情勢
反省なく…何かずれていないか? 食肉問題で外資批判に走る一部中国メディア
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「上海福喜食品」工場内の食肉製品の生産ライン=中国上海市(新華社=共同) 米食品卸売会社OSIグループの中国法人、上海福喜食品が期限切れの食肉を使った製品を販売していた問題は中国に衝撃を広げ、連日のようにニュースが中国の紙面やテレビをにぎわしている。ところが、中国メディアの一部は「海外の高級ブランドはなぜ対策を講じないのか」と糾弾する記事を掲載し、外資批判に走っている。問題を起こしたのはアメリカの会社の支店で、責任を中国に押し付けるな、という論調が散見されるのだが…。
中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」日本語版が7月24日付で掲載した記事は「食品の安全はどれほど小さな問題であっても、提携先・消費者に大きな影響を及ぼす」と切り出した。
ところが非難の矛先が向かった先は次の通り。「海外ブランドはなぜ中国市場に進出すると、厳格な基準と要求を放棄するのだろうか?」
また、人民日報系の環球時報は「国際的なブランド企業は中国の消費者へのサービスに神経を注いでいない」と、OSIやマクドナルドを非難。上海の経済紙は、中国に進出した外資系食品企業が市場の監督の欠陥を利用してもうけていると掲載した。
期限切れの食肉加工品を納品し、床に落とした製品を平然と製造ラインに戻し、期限を7カ月も超えたカビの生えた肉を使う-。日本をはじめ海外にも報じられた工場内の映像や様子は、中国の衛生管理意識に不信を抱かせた。
事件発覚の発端は内部情報を基にした上海のテレビ局、東方衛視台の潜入取材だ。当然、中国の安全管理制度の不備を指摘する報道も数多くあり、一般的な中国の消費者は工場の中で行われていた悪辣(あくらつ)な作業に嫌悪感を持っていることが見て取れる。
外資批判に向かった一部の報道で疑問に思うのは、食の安全で問題が起こるたびに、中国自身が一番の損害を受けているという認識が欠落していることだ。深刻なのは「メード・イン・チャイナ」に対する信頼がなくなっていることのはずなのだが。
外資企業の国内支店で問題が起こると、責任をその企業に転嫁しようという流れは、信頼回復には到底つながらない。
中国での食品安全の問題は枚挙にいとまがなく、毎年のように何かの問題が起こっている。
昨年では、ネズミやキツネの肉を混ぜた「偽装羊肉」が鍋料理の有名チェーンに流通していたことが発覚。「イタイイタイ病」を引き起こすとされるカドミウムに汚染されたコメが市場に流通していた。
また、工業排水から油を濾過して精製し、食用油として販売されていた「地溝油」問題で、大手食用油メーカーが3万トン以上を販売していた事が裁判で明らかになった。
今回の問題の原因が現地の工場にあるのか、米国本社にあるのか、あるいはモラルの欠落なのかなど、責任の所在を明確にすることはもちろん重要だ。
しかし、中国では2008年、乳業関連企業が製造した粉ミルクを飲んだ乳幼児が死亡し、食品に混ぜるとタンパク質を多く見せかけることができる化学物質メラミンが検出されるなど、過去あまりにも頻繁に食品と生命の安全にかかわる問題が発生している。これまでの経験から学んだことや反省は生かされていたのか。
人民網の記事の結びに、上海市食品安全弁公室専門家チームのメンバーの次のような談話がある。
「海外で同じような事件が発覚した場合、企業は再起の望みを絶たれる。巨額の罰金で資産を失い、提携先から見捨てられる。中国ならば、企業は違反後も、新たに企業を登録設立し蘇ることができる」
制度の不備をなくせと警鐘を鳴らしてはいるのだが、撤退しないでくれという微妙な言い回しの懇願のようにみえる。何かずれていないだろうか。(平岡康彦)