農協改革が、激しい議論になっている。JAグループ(以下、農協)に、メスを入れようとしている政府与党。それを食い止めようとする農協。両者とも、僕には極端な主張に思える。端的に言って、農協には良い面と改革すべき面がある。それは政府自民党も同じこと。農協案も政府案も、一定の評価はできるが、白か黒かではない。
そもそも、農協改革はいったい誰のために行われるのか。農業活性化のためというお題目を、僕は素直に受け入れられない。なぜなら、農協改革案の前に、政府自民党の農業政策の方向性が不明確だからだ。減反政策廃止と喧伝し、今年のコメ相場(農協概算)は1俵7000~8000円へ大暴落。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は、守秘義務との名の下、実態が明らかにされないまま、年明け2月には妥結を目指すという。これからの農業は、大規模化を目指すべきだとのミスリードもあり、農家は混乱するばかり。
◆スリム化で機能強化
それに輪をかけて、ここ数年の天候異常で、ただでさえ難しい農業が、一層難しくなっている。当然にそんな中で、後継者が増えるはずもなく、農家の高齢化は加速している。一部メディアには、特殊な才能やチャンスに恵まれた立派な農家がよく登場するが、ごく一部の状況であり、国内農業の未来を担保するものではない。
農協改革案では、農協グループにおける経済事業(農業支援業務)と金融事業の分離も議論されている。僕も、農業という産業が正常で健康な状態であれば、金融分離案には賛成である。しかし、いまの国内農業は危機的状況である。農業という産業強化の観点で言うならば、いま農協から稼ぎ頭である金融事業を取り上げることは、あたかも社会的平等のように見えるが、結果として農業のさらなる凋落(ちょうらく)を招くことになる。農協が弱体化すれば、農業者に良いサービスはできなくなる。
農協改革は農協の弱体化ではなく、条件付きで農協の強化を目指すべきだ。条件付きとは、まずは20万人もの農協職員を削減することだ。あまりにも肥大化した組織は、維持のため、必要以上の収益に執着せざるを得ない。
また、独占禁止法上の運用も見直す必要がある。農協が独禁法適用除外を受けているのは、農協の活動すべてにおいてではない。戦後の混乱した国内食料事情をカバーするために、当時としては食料を総合的に管理する必要があり、そのため独禁法の適用除外という条文が、農協法に記載されただけのことだ。いまや青果物流通、種苗・農薬・肥料などの農業資材流通、あるいは農業機械に伴うリース等金融事業などは事実上の農協独占・寡占の弊害が生じている。
農協の不良債権処理も、不可避である。農協同士の合併による玉虫色の不良債権処理ではなく、一般経済原理にのっとった処理をすべきである。
農業不良債権が廉価で流通すれば、そこには新規参入のプレーヤーが生まれ、また競争原理が生じる。
◆限界集落の拡大も
政府や世論に言われるまでもなく、農協自身も当然に問題点には気がついている。しかし、農協自らが遅々として改革を進めなかったので、政府の介入という現状を招いてしまったのだ。
日本中に張り巡らされた農協網は、単に農業問題にとどまらず、農村のインフラにも大きく貢献している。
郵政民営化により郵便局が減少したように、農協が減少することは、限界集落の拡大につながる。政府と農協は敵同士ではない。薩長同盟のように、政府と農協が握手をし、国民に最大の利益をもたらすように努力すべきだ。農業政策は、単なる農家の保護問題ではない。農業の発展は、農家のみならず、地域経済の発展であり、国民の健康を守り、食料安全保障という国家の基盤を成すものである。
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【プロフィル】鈴木誠
すずき・まこと 慶大商卒、1988年東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。ベンチャー投融資担当などを経て98年退社、2001年日本ブランド農業事業協同組合事務局長、03年3月ナチュラルアート設立。農業経営・地域経済活性化・店舗運営・食育プロデューサー。48歳。青森県出身。