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【専欄】彼らが爆買いできるワケ ノンフィクション作家・青樹明子

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

【専欄】彼らが爆買いできるワケ ノンフィクション作家・青樹明子

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 今年ほど春節・旧正月が、日本で話題になった年はない。訪日中国人の「爆買い」の様子が連日メディアで報道され、期間中の消費が約60億元(約1157億円)というその額に誰もが驚いた。

 それにしても、と多くの日本人が首を捻(ひね)ったことだろう。

 --どうして彼らはそんなに金持ちなんだ?

 本当にそうだ。統計上では、平均年収は100万円にも満たない人々が、1回の旅行で何故(なぜ)20万円、30万円と買い物ができるのだろう。

 「富裕層だから?」と考えるかもしれない。いや違う。近年訪日して爆買いする中国人の多くは、普通の人々、つまり中間層である。

 中国は公の数字では判断できないことが実に多い。庶民の財布の中身も同じである。給与額だけで判断してはいけない。彼らの収入の半分は、給与以外で得るお金、いわゆる灰色収入である。

 灰色収入とは、日本語でいえば、臨時収入、アルバイト収入だろうか。黒色収入とは違い、違法ではない。原稿料、講演料、何かを紹介したときに受け取る礼金、自由業的な仕事で得た報酬…、名目は多岐にわたる。そしてほとんどの場合、記録にも残らず、税金もかからないために、灰色収入は10割が可処分所得といっていい。

 収入の半分を、アルバイトで得るとなると、みんな必死でアルバイトをする。

 中国駐在の日本人Aさんは、ある日会社の中国人スタッフにこう言われて驚いたという。

 「大事な仕事は週の後半に入れてください。週の前半はアルバイトが入りやすいので」

 日本語に堪能なそのスタッフが、通訳・翻訳のアルバイトをしていることは知っていたが、ここまで堂々と言われると、Aさんが長年抱いてきた「会社員の常識」が、がらがらと音をたてて崩れていくような気がしたという。

 私も中国人と一緒に仕事をして約10年、スタッフのアルバイトは最も頭の痛い問題だった。彼らのアルバイトの都合で、何度収録日程を変更したことだろう。本業を優先させてくれというと、「私は家族を養っていかなければならない。もっと気を遣ってくれ」と逆に怒られた。

 中国人社員のアルバイトは、現地駐在員にとっては頭痛の種である。しかし、そのお金がまわりまわって、日本経済に還流しているとなると、気持ちは大変複雑である。

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