ニュースカテゴリ:政策・市況
国内
3月の日銀短観 原油安頼みの企業、実力に「不安」 慎重姿勢浮き彫りに
更新
日銀の3月短観 メリットを上回る先行き不安-。3月の日銀短観では、景気に対する見方に企業が依然として慎重姿勢であることが浮き彫りとなった。原油安という“神風”で業績を急改善させる企業が多い一方、円安によるコスト高や世界経済の先行き不安、力強さに欠ける国内消費などへの警戒感が根強いことが要因だ。「長らく続いたデフレで企業が疑心暗鬼になっている」との見方もある。(飯田耕司)
「良くもなければ悪くもない。ただ、景気悪化を示唆する内容ではない」。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、今回の短観をこう分析した。
ほとんどの民間予想は、前回12月に比べ、「原油安と株高が進み、コスト低下、資産効果への期待が表れやすい」(SMBC日興証券)との理由で、「小幅改善」するとみていた。4月からは法人実効税率が34・62%から32・11%に下がるほか、原油安の効果もより一層表れる見通しなど、企業を取り巻く環境は決して悪くない。
だが、ふたを開けてみれば、代表的な指標である大企業・製造業の足元の景況感は「横ばい」で、先行きに関しては「悪化」。特に、円安で輸出採算や海外売上高がかさ上げされ好業績に沸く自動車ですら、先行きについて、「悪化」と慎重な見通しとなった。今回の結果に、日銀内でも「なぜ」と戸惑う声すら挙がったほどだ。
ある日銀幹部は「15年間のデフレは大きい。そう簡単に人々の気持ちは変わらない」と、半ばお手上げといった受け止めだ。
小売業界からは「増税によって3%分負担が増える中で、1%程度消費を抑えているようにみえる」(三越日本橋本店の中陽次本店長)との声が聞かれる。昨年は好調だった自動車業界には、節約志向から消費税増税前にクルマが売れただけとの見方も強い。あるアナリストは、好業績の企業に対しても「実力ではなく、円安や原油安に助けられた」と厳しい見方だ。
4月からは、年金を物価や賃金の伸びよりも抑える「マクロ経済スライド」が導入され、年金抑制が始まった。非正規雇用者も高止まりし、実質賃金も全体でみれば伸びていない。少子高齢化で、労働力人口も減る一方だ。
こうした状況下では、企業も足元の業績が好調でも、先行きに慎重な見方が出るのも当然だ。平成27年春闘では大企業を中心にベースアップが相次いでいるが、「本当は賃上げどころではなかった」(自動車大手)との声も出ている。
長引くデフレマインドからの脱却には、先行きに対する不安払拭が必要で、今後は、政府の社会保障制度の充実なども課題だ。日本経済の“実力”が問われる新年度となりそうだ。