【飛び立つミャンマー】高橋昭雄東大教授の農村見聞録(53)
更新村はまた葉巻の原料となる葉タバコも生産する。紙巻きたばこ用の葉タバコは、世界で広く栽培されている黄色種(Flue-Cured)で、バガンの対岸のミッチェーが産地として有名だが、ミンジャンの村々で栽培されているセーユェッジーはそれとは異なるミャンマー固有のものである。8月から2月にかけて栽培され、その生産費は1エーカー(約0.4ヘクタール)あたり40万チャットと、コメやゴマに比べてかなり高い。そのうち労働費が半分を占め、数カ月乾燥させた後の仕分けも手作業という、手間と時間のかかる作物である。そして、葉巻プエザーとは異なる、葉タバコのプエザーを通じてセーレイッコウンに納入される。
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このように葉タバコと葉巻の生産過程で町と村の人々は複雑に絡み合い、ミンジャン・セーボーレイッ経済圏を作り上げている。それぞれの生産過程が労働集約的であるがゆえに多くの雇用機会を生み出している。絶妙な産地形成の事例であると言えよう。
◆大きな変化の時
だがそこには大きな逆風が吹いている。第一に環境問題である。タナペッはシャン州の山間地でパオ人によって栽培されるが、この葉を乾燥させるのに大量の薪を要する。その薪のためにパオ人が森林を伐採するので山の保水力がなくなって農業に支障が出ている、タナペッに使う農薬と肥料が水を汚染している、と山麓に住むシャン人から不満の声が上がっている。
