【飛び立つミャンマー】高橋昭雄東大教授の農村見聞録(53)
更新第二は競争問題である。1988年までの社会主義時代には、国営企業がまずくて高い紙巻きたばこを作っていただけだったので、都市でも農村でもたばこといえばセーボーレイッだった。しかし、90年代の軍政期に貿易の自由化が進むと、外国製の紙巻きたばこが入ってくるようになり、都市部を中心にこれを吸う人が増えた。さらに2012年外国投資法により、日本たばこ産業(JT)やBritish American Tobaccoといった世界的企業が、ミャンマーの低いたばこ税に引かれて参入し、紙巻きたばこの生産量は一気に拡大した。低価格のセーボーレイッは今も農村部で人気が高いが、農村の所得が上がり、紙巻きたばこ企業が攻勢をかけるならば、農村部でもセーボーレイッから紙巻きたばこへの需要シフトが起こるかもしれない。
<< 下に続く >>
第三が健康問題である。2015年から紙巻きたばこにも葉巻にも、「たばこを吸うと肺がんになる」とのキャプションが入った、肺が真っ黒な毒々しい写真をパッケージいっぱいに張らなければならなくなった。このような反たばこキャンペーンやこれからますます増えるであろう特別な課税は、喫煙人口そのものを減少させずにはおかないだろう。
王朝時代から続くセーボーレイッ文化・経済圏は、大きな変化の時を迎えているように思われる。
(参考文献:松田正彦「紫煙がつなぐ平原と高原」落合雪野・白川千尋(編)『ものとくらしの植物誌:東南アジア大陸部から』 臨川書店 2014年)
