欧州でラグジュアリー領域が成立するに、いくつかの要素が根底にある。まず産業クラスターである。南仏の香水、ドイツのゾーリンゲンの刃物、イタリアのヴェネツィアのガラスなど多数の産業クラスターが、いわば「聖地」のように存在する。
一方、ロンドン、パリ、ミラノといった都市は、いわゆるブランド通りがあるだけではない。博物館や美術館などラグジュアリー領域のストーリーを語ってくれる場がある。また、レベルの高いビジネススクールでラグジュアリーマネジメントを学び、アートスクールでデザインを修めた人たちが、欧州各国のハイエンドな企業に散っていく。
そして、フランスワインを世界に広めるために確立した営業システムとしてのソムリエのような仕掛けが、各種の分野で用意されてきた。あるいは、この数年、EUの環境政策と同期するようにラグジュアリー分野の各社はサステナビリティへと注力をはじめている。社会意識に敏感な政策でリーダーシップをとるEUとラグジュアリー領域が重なるのである。
また、フランスのコングロマリットが発揮する統率力に依存する中央集権的な形態と、イタリアの各社が独自に「我が道をゆく」分散型形態が併存している。
これらをみていると日本において企業レベルと政府レベルが何を考え、どこで協力すべきで、どこで協力すべきではないのか、という一連のヒントが浮上してくる。いずれにせよ、総合力が試されているのは言うまでもない。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。