STARTUP STORY

GATARIが見据える、デジタルとリアルの境界がない社会「五感すべてを“拡張”できるモノを」 (1/3ページ)

TOMORUBA
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 スタートアップ起業家たちの“リアル”に迫るシリーズ企画「STARTUP STORY」。――今回登場していただくのは、ARをはじめとしたMR(Mixed Reality=複合現実)サービスを開発・提供するGATARI(ガタリ)・CEOの竹下俊一氏。

 AR(Augmented Reality=拡張現実)といえば、「視覚」を使ったサービスが一般的だが、GATARIのサービスは「聴覚」に訴えるもの。他にはない独創的なアイディアで、2020年から様々なアクセラレーターで採択され、次々と大企業との共創を進めている。今回は竹下氏が起業した背景から、アクセラで採択される理由について話を伺った。

「本当にやりたい事業をやる」初めての起業の失敗から学んだ教訓

ーーまずはMRに興味をもったきっかけについて教えてください。

竹下氏:

MRに興味をもったのは2015年、大学3年生の時です。当時はOculus Rift(オキュラス・リフト)の試作機がキックスターターで話題になるなど、日本でVR(Virtual Reality=仮想現実)という単語が一般に認知され始めたころでした。

当時は就職を考えていて、VR体験ができるという就活イベントに参加したのです。そこでVRを使った面接を体験しました。VRヘッドセットを被ると、現実では何もなかった目の前の空間に面接官のアバターがいる、そしてシュールなくらい普通に面接が行われる中で実は相手がアメリカにいるということを教えられたとき、今までずっと同じ空間を共有しているかのような感覚だったので非常に驚きました。

自分の脳がこんなにも騙されるものかと衝撃を受けた私は、一気にVR/MRの世界にハマっていきました。

ーーMRにハマって、すぐにGATARIを創業したのでしょうか。

竹下氏:

実はGATARIの前に、インターン先の同期3人で起業したのが始まりです。3人でそれぞれ20万円を持ち寄り、資本金60万円のスタート。資金が切れれば経営を続けられないため、最初はVR技術を活用して手堅くマネタイズの見当がつきやすい不動産のオンライン内見サービスを開発していました。今でこそニーズの高いサービスですが、まだほとんどVRという単語も知られていない当時は営業の反応も悪く、最終的にチームは解散することに。

そこから改めて仲間を集め、社名変更して再スタートしたのがGATARIです。

ーー初めての起業から学んだことがあれば教えてください。

竹下氏:

一回目の失敗を分析すると、手堅さを求めるあまり自分たちが本当にやりたい事業ができていませんでした。そのため当初の仮説が外れてうまくいかなくなったときに、チームがそこで頑張り続けるための心の拠り所となるものがなかった。

その教訓を活かし、GATARIでは自分が本当にやりたい事業をすることに。自己資金の枠に囚われないためにも、「Tokyo XR Startups」のアクセラに採択されて事業を始めました。

世界初の「AR×聴覚」サービス立ち上げ背景

ーー新たなスタートを切ってから、どのように事業を組み立てていったのでしょうか。

竹下氏:

まずはAR業界の背景からお話しますと、ARの技術は主に「デジタルリアリティ(digital reality)」と「デジタルセンス(digital sense)」の2つの軸で発展が進んでいます。

デジタルリアリティとは、デジタル情報があたかもモノのように現実の空間に配置されて保存されている世界です。音声であれ映像であれ、デジタルの情報を現実世界の空間に保存し、共有することができます。SF映画やアニメでよく見る、デジタル情報が空間に浮いているようなものをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

しかし、デジタル情報が現実世界に配置されていても、私たちは生身の体でその情報に気づくことはできません。現実空間に保存されたデジタル情報を読み込むために必要なのが、ウェアラブルデバイスのような人間の五感を拡張する「デジタルセンス」です。視覚を使うならARグラスのようなものですし、聴覚であればイヤホンのようなデバイスとなります。

ARと聞くと、ARグラスが注目されてしまいがちですが、本質的に重要なのはデジタルリアリティの実現です。デジタル情報を現実空間に配置された世界をいかに発展させ、インフラとして社会に実装できるかが肝になります。

しかしARグラスの普及が開始するまで、あと3~5年以上はかかると考えるとtoCでARグラスを前提にした体験は現状、デモンストレーションやプロモーションにしかなりません。いち早くデジタルリアリティの世界をソリューションと絡めて社会に実装を開始していくにはすでに普及している聴覚デバイスから始める必要があると思いました。

ーーARグラスの完成までにそこまでかかるんですね。

竹下氏:

既にマイクロソフトの「HoloLens(ホロレンズ)」をはじめとしたMRグラスは発売されていますが、まだ日常生活で使える代物ではありませんし、現状の技術のリニアな延長線上に完成形があるわけでもありません。私も2017年にホロレンズが発売された時は、メンバー全員分購入して使い倒しましたし、実際半年間ほどは常に着けて生活していました。オフィスからラーメン屋に行く途中の交差点の信号の上に置いておいた宇宙飛行士の3Dモデルが、数ヶ月後忘れた頃に見上げるとまだそこにいたときの感動や、装着しながらご飯を食べるとこめかみが痛くなることなど多くの気づきが得られました(笑)。

その経験によりMR技術のすごさを身にしみて体感できたものの、同時にレイヤーとして情報が表示されるだけでは歩きスマホと変わらないと思いました。スマホのモニターがメガネにシフトしてハンズフリーになったにすぎません。

MRの本質的な価値を生み出すには、空間と融け合った情報を映し出すことです。例えば目的地までの道のりを調べる時に、地図が出てくるようではスマホと変わりません。現実の道に沿って矢印が表示されるようになって、初めてMRとしての価値を発揮できるでしょう。

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