第12回 隠れた前提に気をつける〈応用演習〉
前回は「隠れた前提」についてその基本を学びました。同じ情報をもとに「論理的に」結論を出したつもりなのに、相手が納得してくれなかったり、全く違った結論に至っていたり。そんな時は、結論を出すための材料となっている情報=前提が他にも隠れて存在していることがあるのです。今回はそんな「隠れた前提」に注意を向ける練習をしてみましょう。
問題1
AさんとBさんはそれぞれ、テレビで近所のレストランが紹介されている映像を見ました。しかし、2人が出した結論は異なりました。AさんとBさんが次の結論に至った「もう1つの前提」をそれぞれ答えてください。
- Aさんの結論「このレストランにすぐに行くべきだ」
- Bさんの結論「このレストランに行くべきではない」
- 「テレビで紹介されていた」
- +
- 「…もう1つの前提…」
問題1の解説 前提が違うと全く逆の結論に
簡単な練習問題ですが、前提が違うと全く逆の結論があり得ることを簡単にですが確認できると思います。
隠れた前提は、わざわざ明確に表現する必要はないと思われているものほど強く作用するものです。他人の結論に違和感があるときには、「ありえない!」などと感情的になるのを抑えて冷静に前提を探っていきましょう。
問題1の解答例
「もう1つの前提」として考えられるのはこちらです。
- Aさん:テレビで紹介されるのは美味しいレストランだ
- Bさん:テレビで紹介されたレストランは非常に混雑していて入店しにくい
問題2
次の結論に至った「隠れた前提」を考えてください。
「大塚家具は創業社長を追い出して、2代目が社長となった」
「大塚家具は2代目社長になって大きく業績を下げた」
「…隠れた前提…」
だから
「大塚家具の2代目社長は退任すべき」
問題2の解説 「匠大塚」の業績は?
ニュースとしてはお家騒動の結果、「結局2代目社長の先代長女である久美子氏が敗北した」という流れですね。しかし、これは表面的にしか見ていない極めて外野的、メディア的な判断です。数字が悪くなったときに、目についた状況(目につきやすい状況)に原因を求めてしまいがちですが、本当の因果関係は目につきやすいかどうか、いわんやニュースとして取り上げやすいかどうかとは関係ありません。
先代社長が経営する「匠大塚」の業績は公表されていませんが、形としては元の大塚家具の在庫と売場面積のリストラ完了版のようにスタートした業態ですから成功していたとしても大塚家具と比較するのはフェアではないでしょう。
問題2の解答例
隠れた前提として考えられるのは、「先代社長が残っていれば、このような業績悪化は起こらなかった」ということです。
問題3
三菱重工業の経営判断に潜む「隠れた前提」を考えてみましょう。
三菱重工業が縦割り組織の弊害を払拭すべく、事業所・事業本部制の解体を中心にした組織改革を10年かけて実現し、2019年からグローバル・グループ経営に移行します。
問題3の解説 「横割り」だったら?
「縦割り」が日本、そして日本企業の業績悪化や環境変化への対応力低下の原因であると(かのように)語られてすでに数十年が経過しています。対戦中の日本軍の問題点としても指摘されているくらいですから、日本人の意識の中に「縦割り組織=悪」という構図が刷り込まれているのではないでしょうか。
セクショナリズムと呼ばれる考え方ですが、そもそも組織が生まれるのには理由があります。そして、「横割り」も同じ組織です。横割りで設計された組織で縦割りと同じような「組織間のコミュニケーション不足」による提供サービスの劣化や環境対応への遅れが発生している例も沢山あります。
縦割りか横割りかではなく、そもそも「組織の力」と「個人の力」を適切に組み合わせて運営するスキルの問題だと考えなくては、今度は「横割り行政の弊害」という論説が広まる時期が来るだけでしょう。
問題3の解答例
- ・横割り組織が理想的な組織となる
- ・縦割り組織の悪い点を解消する新しい組織図というものが存在する
問題4
次の上司の提案に「隠れた前提」を考えてみましょう。
上司「お客さんから緊急のトラブル対応の要請がきちゃったよ。とりあえずメンバー全員残っておくように伝えて。残るのが無理なら、家で対応できるように伝えて」
問題4の解説 「どれか」で考えない
ビジネスの交渉の場でよく使われるテクニックです。意図的に先方に都合の良い選択肢しか存在しないかのような前提となっています。苦しい選択肢だなと感じていても、急かされているような気がすると、「どちらなら大丈夫かな?」と先方の都合の良い選択肢という土俵の上に乗ってしまいますので、思うツボです。
問題4の解答例
- ・すぐには対応しないという選択肢はない
- ・他の部署から応援を呼ぶという選択肢はない
- ・他の選択肢はない
「常識」は誰の常識か
「論理的である」とは、前提から「正しく」推論しているということですが、スタート地点である前提自体が間違っていたり、隠れていたりすれば当然そこから導き出される結論には違いや違和感が存在します。利用している情報はしっかりと把握できているのか、知らずしらずのうちに明言しないまま使っていないかに注意しましょう。「常識」だと思い込んでいるものは、ビジネスの現場では多くの場合共有されていないものです。
Common sense is the collection of prejudices acquired by age 18.
常識とは18歳までに身についた偏見の集合体のこと。―アインシュタイン
ビジネスの常識も同じように、自分の職場で身についた偏見であると自覚しておきましょう。
【今日から使えるロジカルシンキング】は子供向けにロジカルシンキングのスキルを身につける講座やワークショップを開講する学習塾「ロジム」の塾長・苅野進さんがビジネスパーソンのみなさんにロジカルシンキングの基本を伝える連載です。アーカイブはこちら