より詳細な行動レベルで見ても、新卒時に残業文化に染まった上司は、「時間をかけて仕事をする部下を評価する」「自分の仕事が終わっても職場に残る」「これまでの慣習ややり方に固執する」といったマネジメント行動をする傾向が強くなっていました。こうした行動によって、部下の残業時間が長くなっているようです。
さらに興味深いのは、こうした傾向は、新卒時の組織だけでなく、転職した先の組織でも消えずに残っていたことです。上の分析も、「転職経験のある上司」に絞って分析しています。つまり、日本企業の残業体質は、上司-部下間という「世代」だけではなく、「組織」をもまたいで受け継がれているということです。
職種ごとの特徴
メカニズムを4つに整理して説明してきました。これらの特徴は、職種によって違いがあります。それぞれのメカニズムの代表的なデータを分かりやすいよう偏差値化して比較しました。
これを見ると、ホワイトカラーは「集中」が、システムエンジニアやプログラマーのようなIT系技術職は「感染」が強くみられます。ブルーカラーは「麻痺」につながる60時間以上の超長時間労働者が多く、「遺伝」を導く上司の長時間労働経験は、企画・クリエイティブ系の職種に多いようです。このように職種によって起こりやすいメカニズムには濃淡が見られており、画一的な対策をとるだけでは限界があります。
残業の「組織学習」を解除するため、コンディションを把握せよ
ここまで述べてきた残業のメカニズム、「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」をトータルで考えると、残業習慣が「組織学習」されている、ということが言えます。「集中」「感染」によって発生した残業は、過度になると「麻痺」の可能性が高まり、自発的な残業を招きます。残業経験は積み重なり、「遺伝」によって世代と組織をまたいで継承されていきます。それぞれのメカニズムは相反するものではなく組織レベルと個人レベル、世代レベルで強化し合っています。
個人が身に付けてしまった習慣が、組織に共有され、広がり、定着し、また個人に影響を与える、これが「組織学習」であることで重要なのは、組織から人が入れ替わっても、この学習効果が組織内に残り続けるということです。
「学習」とは、多くの場合、やれなかったことができるようになる、新たな知識を蓄えていくといった前向きなプロセスに使われる言葉ですが、ここではいわば「負の組織学習」が行われています。この温存の構造に対して、「お前が悪い」と誰かを指弾することや、「意識を変えるべき」と抽象的な次元で議論することはほとんど意味をなさないでしょう。
現在、企業で行われている残業施策の取り組みの多くが、主に「勤怠時間」ないし「売上高」などの表面的な数値変化によって効果が測られてしまっています。ここまで議論してきたことを踏まえると、この取り組みは大きな不足です。真に「働き方」を変えるためには、こうした組織内メカニズムが解除される必要があり、そのプロセスをオミットして「平均労働時間」「時間あたり成果」だけ追いかけると、どこかに必ず歪みが生まれます。