そんなモーレツ社員を支えたもうひとつの仕組みが、「企業別組合」でした。労働組合が産業別ではなく、ジョブホッピングを前提としない企業別であったことで、労使交渉が企業内の働き方や労働環境といった次元の話になり、労使間の妥協が起きやすくなっていたのです。業界全体を巻き込む激しい労働運動は抑制され、その一方で、経営者側もある程度の生活を保証する前提で妥協していたわけです。
このような背景から、世界的に普及することになった「カイゼン」(※1)や、クオリティーを保つための「QCサークル」(※2)が生み出されました。「従業員が会社のために自発的に品質改善を行う、そんな日本企業はすごい」と世界から注目を集めたのです。
※1 おもに製造業の生産現場で、作業効率などの見直し活動を社員が自発的に行うこと。トヨタ自動車の生産方式が有名で、海外にも「kaizen」として広く知られる。
※2 QCはQuality Control(品質管理)の略。カイゼンを支える手法で、おもに現場の従業員が、品質管理や作業効率改善などのためにアイデアを出し合ったり議論したりする活動のこと。
米国でも感情を切り売りする働き方が推奨された
さて、個人的に面白いと思うのは、このような「従業員自らが会社に貢献する」ような考え方が、のちのアメリカのIT企業にまで広がっていったことです。
まず、IT企業以前にサービス業からその流れがありました。83年にアメリカの社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールドが著書『管理される心』で、「感情労働」という概念を提唱しています。